fuekinori's profileCAT HAWAII ~ネコの楽園~BlogLists Tools Help

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    長い 前置き ̄д ̄;

    8/31(新)「順子誕生」
     昭和33年、夏。名古屋市南部。節子は、画家志望の夫・恭平、恭平の父で警察官の大吉、母の静子と暮らしていた。助産師をしている静子のもと、第一子となる女の子・順子を出産。1年後、順子に重い心臓疾患が判明。節子は、出産まで働いていた警察官に復職し、手術資金にあてようとする。昼、静子が目を離した隙に順子がいなくなる。節子が半狂乱になる中、静子は思い当る節があり、外に出て行く。夜になり、順子が自宅前の大木の下に置かれていた。静子も夜明け近く、憔悴しきった顔で帰ってくる。節子は二度と順子を離さないと誓うが…。

    キャスト & スタッフ

     昭和20年の名古屋空襲で戦災孤児となった節子(岩崎ひろみ)は、神崎家で大吉と静子の一人息子である恭平(永岡佑)と共に育てられた。神崎家は代々警察官を務める厳格な家庭。その正義感を強く受け継いだ節子は、神崎家への恩返しのために警官となる。
     やがて恭平と結婚した節子は、娘「順子」を授かった。幼い順子は心臓に病を患うが、家族の力でなんとか乗り越える。希望を見出し、順子への愛情をさらに深める節子だが、手術の際に節子と両親との間には溝ができてしまう…。
     ――そして昭和34年9月26日。のちに「伊勢湾台風」と呼ばれることになる未曽有の台風が押し寄せる非常事態の中、節子は職務を全うし、警察署へ留まる。「一刻も早く家族のもとに帰りたい」そんな思いは警察官として打ち消して…その間、家族の状況を知る手だては何もなかった…。
     開局間もない東海テレビに残る貴重な報道映像を織り込んだ、オリジナルストーリーの本作。台風によって引き裂かれた母と子の苦悩や葛藤を軸に、人が幸せを追い求める力強さや互いを思いやる心の温かさを丁寧に描いていきます。ぜひ大切な人と一緒にご覧ください。

    …次代への犠牲となった方々への哀悼の意を表して、こうした惨劇が二度と繰り返されない事を祈念して

     キャスト
    神崎節子…岩崎ひろみ  宇田川百合子…宮本真希  神崎恭平…永岡佑  神崎順子…三浦透子 (第14話~)  宇田川亜弓…山口愛 (第14話~)
    宇田川加代…沢田亜矢子  宇田川宗助…原田大二郎

     スタッフ
    【脚本】  清水曙美  いとう斗士八  青木江梨花
    【プロデューサー】  市野直親(東海テレビ)  沼田通嗣(テレパック)
    【演出】  藤尾隆(テレパック)  杉村六郎
    【音楽】  富貴晴美
    【主題歌】  「夜明けを求めて」 THE ALFEE (EMI ミュージック・ジャパン)
    【制作】  東海テレビ放送  テレパック

    乳首が感じちゃう おっさんw

    2009/08/28 午後 11:17 放送予定
    新展開の爆笑ネタ登場!
    【内容】
    依頼は、石田靖探偵が調査した『自転車で一人旅する娘』、桂小枝探偵の『乳首が感じすぎる54歳』、田村裕探偵の『史上最高に怖い映画』の3つ。
    1.『自転車で一人旅する娘』石田 靖探偵
    大阪市の女性(50)から。20歳の娘は、先月末から約1ヵ月かけて鹿児島・沖縄の離島を巡る自転車旅をしている。野宿覚悟で基本的に宿に泊まらず、見知らぬ人に声をかけて「泊めて頂いていいですか?」とお願いするという計画。彼女は社交性があり、柔軟性も適応能力も高いので、何とかなるだろうと心配しなかった。ところが、自己紹介と話のネタになればと、彼女の写真で簡単なアルバムを手作りしたところ、娘を突然手放すような気持ちになり、安全に一人旅が出来るのか、心配になってきた。娘から電話やメールを禁止されており、「来るのもダメ」と釘を刺されているため、心配でしかたない。どうやって宿泊交渉をしているのか、迷惑をかけていないか、彼女の一人旅をこっそり見せて欲しい、というもの。
    2.『乳首が感じすぎる54歳』桂 小枝探偵
    大阪府の男性(54)から。若いころから乳首がすごく敏感で、中学生のときは柔道の胴着で乳首がすれてすぐに硬くなり、友達が面白がって触ったりもした。今でも体に手が忍び寄るだけで、もだえてしまう。大変なのが運転する時で、シートベルトが乳首に当たるたびにもだえ苦しみ、変に感じるため、片手でシートベルトを横に寄せながら運転している。こんなに感じる男性は、世の中にたくさんいるのか。治るのであれば、その方法を教えて欲しいというもの。
    3.『史上最高に怖い映画』田村裕探偵
    東京都の男性(25)から。今から44年前、1965年にアメリカで制作された“シェラデコブレの幽霊”というホラー映画は、その試写版を見たアメリカのテレビ局幹部が、あまりの恐怖から嘔吐したといわれ、ついには「恐すぎる」という理由で、アメリカ本国でお蔵入りしたとか。ある本でこの作品を知ったが、今ではとても入手困難と書かれていた。なんとか、その“シェラデコブレの幽霊”を探し出し、観賞させて頂きたい、というもの。

    ラストシーン(笑)

    8/28(終)「最後の秘密」
     みのりの事件が解決した。今度こそ紀保は夕顔荘のある町に別れを告げていた。それだけでなく、アトリエも杏子に任せていた。まもなく、紀保はみずえに会い、父がみずえから娘を奪った罪を詫びる。心を病むみずえに返事はない。紀保は深々と頭を下げると、みずえと別れ、海辺に出る。崖の上に立った紀保は、全身に心行くまで風を受ける。その頃、みずえがベッドから降りて紀保を追いかけようとしていた。来合わせた伊織が驚くと、みずえはいつになく意志のこもった目で打ち明ける。「本当は……私が……殺したの」。伊織はみずえの衝撃の告白を聞く。やがて夏の秘密が明らかになる……。(終)
    *「夏の秘密」予告メールにご登録頂き、ありがとうございました。次回作の昼ドラは8/31スタート「嵐がくれたもの」。こちらの予告メールもどうぞご登録ください。
     第65話 「最後の秘密」8月28日(金)放送

     紀保を追おうとするみずえ。足がもつれて転ぶ。それでも前へ進もうとしたとき、伊織が来る。駆け寄る伊織にみずえがいう。本当は私が殺したのだと。
     みずえに挨拶をすませた紀保は近くの崖に来ていた。歩いて行くと先端で立ち止まる。どこまでも海原が広がっている。風が吹いている。すべてが終わった。目を閉じる。心地よく全身に風を受ける。
     驚く伊織が聞く。殺したって誰を? いったい何の話? いつになく真顔のみずえが一点を見つめる。夏だったわ。私こっそり、あの人に会いに行った。あの人がその日、父さんと会う約束だと知って...。
     25年前の夏の日。堤防に立っている女は紀佐。髪に青いリボンを結んでいる。身重のみずえは近づいていった。
     父さんと別れて欲しい、子供たちから父親を奪わないで欲しい。そう言って泣いて頼んだ。とても風の強い日で、あの人の髪のリボンがほどけて、それを手首に巻き付けながらあの人は言った。もう泣かないでと。心配しなくても私たちは今日でお別れ、もう二度と会わない、約束する。そう言うと綺麗な顔でにっこりと微笑んだ。
     腹が立った。自分は毎日泣いて暮らしているのに、ひとの夫を寝取った女がどうしてこんなに綺麗な顔で笑うのか。頭に血が上り、気がついた時には堤防から海に突き落としていた。みずえと呼ぶ声がして、父さんが駆けつけてきた。父さんは靴を脱ぎ、ためらうことなく海に飛び込んだ。
     夏だというのにとても風の強い日だった。波に逆らいながら、父さんは紀佐さんの名を呼んで何度も水の下にもぐり、やがて姿が見えなくなった。
     二人は向こうの海岸に泳ぎ着いたと思い込もうとした。でもやがて沖で父さんの遺体が見つかり、浜辺にあの人が打ち上げられた。
     みずえは拳を固く握りしめている。父は紀保の母に道連れにされたのではなかった。自分の母が紀保の母を突き落とし、助けようとした父ともども命を落としたのだった。愕然とする伊織。みずえが泣いている。ごめんなさい。怖かったの。許して...許して。しがみつくみずえを伊織はどうしようもなく抱きとめる。
     崖の上で、紀保は風に吹かれていた。やがて目を開ける。
     伊織が部屋を飛び出す。紀保はまだいるはず。坂道を走り、紀保を捜して海辺を走る。走る。走る。やがて崖の上に辿り着く。「紀保!」と叫ぶ。返ってくるのは風と波の音ばかり。紀保はもういなかった。どこまでも広がる空と海のなかで伊織はひとり立ち尽くす。
     それからまもなく。伊織は羽村と面会する。母の話が事実なら、何と言ってお詫びをすればいいかと頭を下げる伊織。すると羽村がいう。事実はどうあれみずえさんはもう充分苦しんだ。これからだって苦しむだろう。私も一生かけて自分の犯した罪を償うつもりだ。お母さんのことをこれからも支えてあげて欲しい。
     痛みと罪を受け止めて誰もが生きていた。伊織は涙をこらえてはいと返事をする。長い拘置所の廊下を一人で歩いて行く。
     一年後。苦しいところはないと尋ねる杏子。大丈夫と答えたのはウエディングドレス姿のフキ。お腹はもう五ヶ月。そこは柴山工作所。自分たちも着飾った杏子とセリが花嫁を美しく仕上げて行く。
     伊織が来る。気を利かせて出て行く杏子とセリ。伊織は結婚おめでとうと銀のスプーンを贈る。伊織の銀細工。フキは笑顔で受け取る。そこへ「フキちゃん!」と声がする。飛び込んできたのは礼服姿の雄介。伊織の祝福に雄介が照れる。幸せな笑顔があふれる。
     やがて音楽が鳴り、工作所の扉から広場へ、フキと雄介が腕を組んで出てくる。結婚式が始まる。広場から浮舟にかけて長テーブルが一列に並び、この町の誰もが笑顔を浮かべている。伊織も杏子も加わっている。護はその片隅で、介護士を目指して猛勉強をしている。笑顔の蔦子。傍らの和美も、まもなく五代目が生まれると笑っている。人々の間を雄介とフキが酌をして回る。
     作業場で懐かしく機械を見る伊織。そして龍一。久しぶりに顔を合わせる二人。伊織が忙しそうだと声を掛ける。龍一はもうすぐ羽村の最終弁論がある、情状酌量が認められればそう悪い結果にはならないだろうと伝える。そして自分も薬に頼ることもなくなったと言う。龍一は伊織が工作所を辞めて母と暮らしていると聞いていて様子を尋ねる。アクセサリーを作りながらなんとかやっていると伊織。それぞれに道を見つけ生きている二人。
     龍一が、君さえ良ければ君の新しい連絡先を彼女に伝えようかと申し出る。伊織はしばし考え、いいですと断る。僕らは互いに加害者でもあり、被害者でもある関係だから。それに、彼女は自分の連絡先を誰にも言わないで欲しいと龍一さんに頼んだということは、俺とも連絡を取りたくないということ、自分は彼女の気持ちを尊重しますと。伊織を見つめる龍一、僕も君の気持ちを尊重しようと言う。弁護士というより二人の友人として。
     互いに笑みを浮かべる二人、そして握手を交わす。セリが顔を出し、みんな待ってるんだからと龍一を引っ張って行く。
     式は盛り上がっている。フキにケーキを食べさせる雄介。それを見守るセリと龍一、蔦子と加賀、紅夏と護。源次も戻ってきて笑顔で良枝とケーキを食べている。雉牟田がさっさと持って行けと脅すのは、酒樽を手にした居酒屋の店員姿の犬山。
     賑やかな声を遠くに、伊織は夕顔荘に佇む。開け放たれたみのりの部屋はガランとしている。台所に向かおうとして庭に目を留める。一年前の紀保を思い出す。刑事と行く羽村を見送った後、紀保はそこに悄然と立ち尽くしていた。
     大丈夫かと声を掛けた。紀保はええと答えた。なぜ自分が殺したことにしたのか尋ねた。紀保は、自分が本気で身代わりになる気だとわかれば父は真実を話してくれると思った、父の愛を利用したのだと説明し、そして言った。
     これでようやく、あなたも私も、探していた真実にたどり着いた。だけど真実はいつも優しいとは限らない。愛がいつも正しいことをするとは限らないように。
     それでも真実を見つけ出したことを後悔していない。そう言うと紀保は伊織を見て言った。あの夏の日に、ここであなたと出会ったことも。
     伊織は黙っていた。今度こそ同志は解散ね。さようなら。紀保は伊織の脇をすり抜け、路地につながる戸口から出て行った。伊織はみじろぎもせず見送っていた。
     一年の時が流れていた。伊織は戸口を見つめている。やがて空を見上げる。
     海が光っていた。紀保は海沿いの道を歩いていた。乳母車には赤ん坊が乗っている。明るい表情で歩みを進め、やがてある店に入って行く。
     そこは海辺のサーフショップ。紀保は若い店主に声をかける。取り出したのは小さなドレス。店主がこれなら娘も大喜びだと満足する。それは紀保が仕立てた店主の娘のピアノの発表会のドレス。紀保はまたよろしくお願いしますと笑顔で頭を下げて店を出る。
     乳母車を押して進む紀保。海辺の道。その近くの浜辺にスケッチをしている人影。描いているのはヒトデや巻貝。伊織はつぶさに貝を眺める。気づく由もない二人。
     やがて紀保は海辺の一軒家にたどり着く。ただいまと声をかけ、赤ん坊を抱き上げる。

     サーフショップに伊織が入ってくる。いいのができた?と店主が聞く。ええと答え、伊織は卸しにきた銀細工を見せる。これなんか女の子も喜びそうだと店主が一つ一つ確かめていく。待っている伊織。店に並ぶアクセサリーに目を遣るそのとき、ふいに目が留まる。カウンターに指輪。それは海のようなトルコ石の入ったあの指輪。信じられない想いで手に取る。「これ」と震える声で聞く。サイズ直しを頼まれたと店主。伊織は逸る気持ちで聞いている。誰が持ってきたのか、いまどこにいるのかと。
     紀保は海辺の一軒家にいた。ばいばいと出てくる紀保を、赤ん坊を抱いた車椅子の弥生が見送る。
     店を飛び出す伊織。紀保が去った方向に走る。紀保は見つからない。往来をどんどん走る。走りながら思い出す。指輪を突きつけた紀保。あなたが作ってくれたこの指輪を見た瞬間、どうしようもなくあなたを愛してる自分に気が付いた。返すわ。その代わり、何も知らずにあなたを愛した私の心を返して。涙を浮かべた紀保に、捨ててくれて結構だと言った。紀保は涙の目で睨んでいた。その指輪を紀保は捨てていなかった。
     紀保が海岸線へと降りて行く。浜辺に近づき、海沿いの道がずっと遠くなる頃、今度は伊織が海沿いの道をくる。伊織は浜辺を見ないまま、海沿いの道を行ってしまう。
     どこにいる、紀保。紀保を求めて走り続ける伊織。どこにも紀保はいない。やがてがっくりと肩を落とし、立ち尽くす。その脳裏にあの日の自分が甦る。指輪を持って出て行った紀保を、あの日、伊織は追いかけた。川岸を探し、橋の上まで追いかけ、見つけられずに肩を落として諦めたあの日の自分。伊織は顔を上げ、ふたたび走り出す。
     海を眺めて立つ紀保。帰ろうとしてふと足を止める。足元にヒトデや巻貝が並んでいる。太陽や月、星や貝殻のように。紀保は腰を下ろし、手に取ってみる。やがてふっと笑みを浮かべて立ち上がる。海を見つめる。帰ろうと振り返ったとき、そこに伊織がいた。
     伊織が近づいてくる。訳がわからない紀保。伊織がこれと指輪を差し出す。サイズ直しを頼まれた。伊織が言うなり、紀保の手を取り指輪を嵌める。驚く紀保。すぐに落ちるわと言いかけたとき、伊織がこうすれば落ちないと手を握ったまま抱き締める。愛してる、あの夏の日のまま。紀保は涙が込み上げてくる。私も、愛してる。伊織の首に手を回し、しがみつく紀保。やがて二人の唇が重なる。海と空が広がっている。その空にうっすらと白い月の舟が浮かんでいる。
                                      終わり

    拘置所も おなじみに

    8/27「真実」
     ついにみのりのメモの「S」の正体がわかった伊織と龍一。紀保が行くとすれば、あの場所しかない…。駆けつけた伊織は、確かにそこにいる紀保を見つける。そしてついに、事件の真相が明らかになる…。
    第64話 「真実」  8月27日(木)放送

     夕顔荘で待つ紀保のもとに羽村が来た。黒いコートを纏う紀保に、何の真似かと問う羽村。紀保は自分がみのりを殺したと言う。馬鹿なことを言うなと羽村。嘘じゃないと返した紀保は、それとも嘘だと断言できる真実を知っているのかと問う。羽村がおもむろに背を向ける。お父さまと紀保。雷鳴が次第に近づいてくる。
     「サトミ?」と聞き返す伊織に龍一が告げる。学生時代に羽村エンタープライズの先代に見込まれて養子に入った羽村のもとの名は里見高広。加賀はみのりが「サトミさん」と呼ぶのを聞いて女の名前と誤解した。愕然とする伊織。紀保はそれに気づいて...。
     みのりの部屋を出た羽村は廊下を歩く。紀保も部屋から出てくる。羽村が懐かしいねえという。
     夕顔荘は私の父が建てた家。父の死後、兄が相続した。愛人にために建てた家のことを口にするのは里見家ではタブーになっていたので紀保が知らないのも無理はない。
     不思議だ。ここには昔、伊久馬が住んでいた。自分が兄に頼んで伊久馬に貸してもらった。それから30年以上も経って伊久馬の娘が住んでいることを知ったときは驚いた。あの子は不思議な子だった。自分の過去よりも紀保に興味を持っていた。
     なぜそれを知ったのかと紀保。かすかにためらい、やがて羽村は電話だと答える。偶然取った一本の電話が、私が長年秘密にしていた過去への始まりだった。
     一年前の初夏、羽村はアトリエにいた。結婚を控えた龍一に紀保から呼び出しの電話。龍一が出て行き、置いていった龍一の携帯がすぐに鳴った。また紀保だと思い、電話に出た。女が言った。龍一さん、覚えてる? 大阪のホテルで会った...。
     彼女が何者か調べて会う約束をした。伊久馬の実の娘だということはすぐにわかった。自分は誰だかわからないよう里見と名乗った。だが彼女は、すぐに紀保の父だと気づいた。紀保に関することは、親の私より詳しいくらい何から何まで調べ上げていたからだ。
     羽村はみのりの部屋に戻る。
     彼女は調べるだけじゃなかった。紀保に姿を似せようと自分の顔まで整形していた。私は彼女が理解できなかった。理解できないものに人はしばしば恐怖を覚える。私もそうだった。このままにしておいては紀保が危ない、心底そう思った。
     続いて部屋に入り、紀保は尋ねる。だからみのりさんを殺したの? 見つめる羽村。私にはわかってる。あの部屋で待つとだけ書いた手紙を見て、迷わずここに来たのが何よりの証拠。それだけじゃない。そう言うと紀保は引き出しからガラスペンを取り出す。羽村が頷く。わかってる。あのとき、紀保は私を試したんだね。
     それは婚姻届にサインをしたときのこと。紀保が出したガラスペンを龍一が使おうとした。割れない方がいいと止めた羽村。あのとき、父が一瞬、眉を顰めるのを紀保は見ていたのだ。娘の婚姻届にガラスペンを使わせたくなかった。それはみのりの遺書が何で書かれたかよく知っていたから。
     羽村は窓により、降る雨を見る。やがて重い口を開く。
     あの子は本気で龍一君と結婚したがっていた。だから言った。遺書を龍一くんに送りつけて死ぬと脅せばきっと龍一くんは結婚を承諾する、そうなれば娘も龍一くんを諦めるだろうと。
     だからって何も...。絶句する紀保。
     殺すことはなかった、そう言いたいんだね。私だって迷った。だが彼女は本気だった。本気で龍一くんの子を産む気だった。彼を愛してたからじゃない。彼が君の婚約者だったからだ。彼女は本気で君の幸せを奪う気だった。
     紀保の胸が苦しくなる。羽村は次第に激していく。世の中、本気の人間ほど怖いものはない。だから私も本気で娘を守ることにした。娘が傷つけられるのを黙って見ているほど臆病じゃない。娘の幸せを守ることが私の生きるすべてであり、唯一無二の私の正義だ!
     もういいと遮る紀保。涙があふれてくる。もう言わないで。小さく吐息して羽村がいう。だが彼女が憎かったわけじゃない。自分の大事なものを守りたかっただけだ。
     そのとき、嘘だ!と声がする。扉が開くと伊織。驚く紀保の目の前で、伊織は綺麗事を言うなと羽村に掴みかかる。あんたはみのりが憎かった、なぜならあいつは瀬田伊久馬の娘だったから。あんたの奥さんを奪った男があんたは許せなかったんだ!
     伊織が羽村を突き飛ばす。反論しようとする紀保。すると羽村がいいんだと遮る。彼のいうことももっともだと。
     この部屋には昔、伊久馬が住んでいた。それはまだ伊織の母と伊久馬が結婚する前のこと。私が兄に頼み、家賃も安くしてもらって伊久馬に紹介した。なのに事もあろうにアイツは...ここで何度も...私の婚約者と会っていた。
     愕然とする伊織。驚く紀保。羽村は続ける。
     だから心のどこかに伊久馬への恨みが隠れていたのかも知れない。だがみのりという子を不憫だと本当に思っていた。親の身勝手な恋のために、あの子は平穏な人生を奪われてしまったのだから。悄然と聞く伊織。羽村は続ける。だからせめて、最期に彼女が憧れる紀保が好きなマカロンを食べさせたかった。
     遺書を書き上げたみのりにマカロンの箱を開けた。みのりは「わあ、綺麗!」と無邪気に声を上げた。疑いもせずにマカロンを口にした。お茶でもいれてこようかと箱を持ったまま立ち上がり、次の瞬間、動きが止まり、手から箱が落ちた。あの瞬間。
     あの瞬間。私は自分がやったことを後悔した。
     泣いている紀保。やがて言う。お父さまは私を守ろうとした。それが愛だということはよくわかっている。それでも罪は罪。たとえ動機が愛だろうと罪は償わなくては。
     君の言う通りだと羽村。紀保はマカロンの箱を取る。これを食べると私、いつも幸せな気持ちになる。警察に行く前にぜひ召し上がってみて。
     ありがとうというと羽村はポケットからハンカチを出して手を拭く。その隙に指の間になにか挟む羽村。紀保は気づかず微笑む。お父さまの娘に生まれたこと、幸せに思っています。
     羽村が微笑んでマカロンを口に入れようとしたとき、伊織が止せと飛びかかる。マカロンとともに羽村の手から転がり落ちたのは小さなカプセル。羽村が急いで手を伸ばすより早く、伊織が手で押さえ、羽村を睨みつける。観念したように吐息する羽村。
     そこへ龍一が入ってくる。龍一は静かに羽村のそばに腰を落とし、もうすぐ警察がくる、社長の名前はまだ出してしない、どうか自分から名乗り出て欲しいと告げる。羽村はどうしても自首させようと言うんだね、やはり大した弁護士だと笑みを浮かべる。見つめる伊織。羽村に身を寄せる紀保。
     朝がくる。雨は上がっていた。夕顔荘の玄関を出ると、刑事が立っている。つい追おうとする紀保を伊織が止める。龍一が紀保に頷き、羽村に従う。羽村は刑事の前に進み、みのりを殺したと告白する。行こうとして羽村が夕顔荘を振り返る。龍一くん、あの日もうだるような暑さでね。
     流れる汗をハンカチで拭い夕顔荘を見つめていた。笑い声がして玄関から若い男と女が出てくる。慌てて身を隠した。二人は気づかず通りへ向かった。再び姿を現し、それを見送っていた。
     あれから30年以上が過ぎたが、私の夏はあの日のまま、ここで止まっていたのかも知れない。ふっと龍一を見る羽村。龍一は羽村を見て、ついで玄関を見ると、そこに涙で見送る紀保と伊織がいる。龍一は羽村の心情を理解する。若い二人に笑顔を向け、刑事とともに羽村が行く。その後を龍一が追う。紀保と伊織はいつまでも見送っている。
     それからまもなく、和美たちは再開発反対の横断幕を片付ける。羽村エンタープライズが手を引き、再開発計画は無くなったのだった。そんななか蔦子は人形を見つめ、思いに沈んでいる。それは紅夏と護と蔦子を象った人形。紀保は人形を残して行ってしまった。
     「雄介さんだ!」と紅夏の声がする。一同の前に現れた雄介が、すみませんでしたと最敬礼で謝る。四代目なんだからしっかりしてくれと和美がどやす。許しにハッとする雄介。いつもの和美に一同から笑いがもれる。
     アトリエではセリがコサージュを杏子に見せている。フキにコサージュを作って以来、ずっと作り続けているセリはついに縫製スタッフのユニフォームを纏っている。それはどこか耕三の血を引いているセリ。杏子が出来を誉める。セリは嬉しいが、キホ先生いつ帰ってくるかなとこぼす。杏子が口より手を動かしてという。紀保のデスクには主がいない。
     伊織はみのりの部屋で荷物を片付けている。すべては終わった。想いを振り切り、ガラスペンを箱にしまうとき、フキがくる。あらたまって正座するフキは返すと言って銀の婚約指輪を差し出す。ごめんなさい、私にとって本当に大事な人は誰かようやくわかった。伊織はつらい想いをさせたと謝る。フキはおかげで幸せは何か考えることができた、それにつらい恋も恋のうちだと笑顔を見せる。
     拘置所の羽村の面会に龍一が来る。龍一は伯父の事務所を辞め、羽村の弁護人の事務所に就職したという。羽村の弁護を手伝い、刑事弁護人として勉強すると。そして紀保とは婚約を解消した、これからはいい友人でいたいと伝える。羽村はよろしくお願いしますと頭を下げる。はいと頷く龍一。
     その日、紀保はみずえのもとを訪れていた。父から預かってきたと千羽鶴にする折り鶴を渡す。そして、みのりさんのことは父に代わってお詫びしますと深く頭を下げる。みずえはただ黙っている。紀保は部屋を出ると閉めたドアにもう一度頭を下げ、静かに去って行く。
     その部屋の中で、みずえはずっと折り鶴を見ていた。不意にみずえの目に意志がこもる。ベッドを降りようとして、足がもつれ床に転ぶ。それでも前へ進もうとしたとき、扉が開いて、入ってきたのは伊織。驚いた伊織が駆け寄るとみずえが口を開く。私なの、本当は私が殺したの。

    からくり

    8/26「消える月」
     罪を告白した紀保。二人で逃げようという伊織。思い出のコテージで一夜を過ごした翌日、朝食を済ませた伊織は睡魔に 襲われる。目覚めると紀保の姿がなかった。伊織は床に落ちていた電話番号のメモから、紀保が母に会いに行ったのだと悟る。母のケアハウスに駆けつけるが、紀保 は来ていなかった。一方、龍一に宛てた紀保の手紙は、まるで遺産分けのような内容が記されていた。龍一がマンションに戻ると、紀保の婚 約指輪が残されていた。焦って手がかりを捜す龍一は、気になる書類を見つける。そこには、夕顔荘と事件をつなぐ重大な 鍵が眠っていた。ケアハウスで紀保を待つ伊織のもとに、事実を調べた龍一がくる。話を聞いた伊織は、事件の本当の秘密に気づく…。
     

    第63話 「消える月」  8月26日(水)放送

     罪を償う前にすることがあるという紀保を龍一からさらって海辺のコテージへ連れて来た伊織。空に浮かぶ月の舟を見つめ、二人で逃げようという。伊織の手を握り返す紀保。二人は身を寄せ合い、いつまでも月を見ている。
     やがて空が白み、いつしか月も消えていく。
     翌朝、「いただきます」と手を合わせて箸を取る二人。食卓にはご飯に納豆、味噌汁の簡素な食事。伊織が紀保のご飯に納豆をかける。幸せを感じる紀保。
     食事が済むと紀保はコーヒーをいれる。時刻表を調べる伊織に出してやる。幸せを感じ、時刻表に戻る伊織。紀保はベランダに出て空を見上げて待っている。
     やがて空になるコーヒーカップ。そのそばに眠る伊織。見つめる紀保の手には錠剤の瓶。眠る伊織の頬に手を触れようとして思いとどまる。そして紙切れを床に置く。
     伊織が目を覚ますと紀保の姿がなかった。頭が痛む。紀保を捜して床に落ちている紙切れに気づく。それはケアハウスの電話番号で、伊織は紀保は母に会いに行ったと悟る。
     アトリエでは杏子と龍一も紀保の行方を案じていた。リヨン行きは偽りだった。そして別荘にあった龍一に宛てた紀保の手紙には、まるで遺産分けのような内容が記されていた。杏子がもう一通の羽村宛の封書を羽村に届けることにし、龍一はマンションへ走る。
     伊織がケアハウスに駆けつける。だがそこに紀保の姿はなく、みずえに付き添うフキがいた。夕べ、胸の痛みで苦しんだみずえ。安静にしていても不安やストレスが狭心症を起こす可能性があるのだという。伊織の携帯にも電話したというフキ。昨夜、伊織は迷った末に携帯の電源を切り、逃げようと紀保に言ったのだった。伊織はすまなかったと謝る。謝って欲しいわけじゃないとフキ。伊織は話がしたいと遮る。するとフキも、自分も話したいと思っていたという。
     伊織がフキと廊下へ出ようとしたとき、羽村が入ってくる。みずえが発作を起こしたときに付いていてくれたのだとフキが説明する。羽村はみずえの精密検査の手配までしてくれたところだった。礼をいうフキのそばで、何も言えない伊織。紀保と逃げようにもみずえを抱えている自分。
     そのとき、みずえが目を覚まし、伊織を呼ぶ。伊織がどこかへ行ってしまう夢を見たと震える。伊織はどこへも行ったりしないと言い聞かせ、水を飲ませてやる。
     その様子を見ている羽村。そこにシスターが運転手から預かった携帯電話を持ってくる。相手は杏子で、紀保から手紙を預かったと知らせる電話だった。
     マンションにも紀保はいなかった。落胆する龍一。宝石箱を見つけ、中を開けてみると婚約指輪が残されている。急いで婚姻届を入れた封筒を確かめると、婚姻届がなくなっている。焦って捜し、取り寄せた戸籍謄本に目を留めたとき、ひっかかりを覚える。そこに記載された名前に覚えがある。記憶の糸をたぐり寄せると、伊織の声が聞えてくる。「里見武夫とは何者だ?」と伊織は言った。夕顔荘は里見という男の持ち物で、その遺産管理を任されているのが龍一の伯父の事務所だと。まさか...。龍一は急いで事務所に電話を掛けて調査を頼む。
     龍一はその足で夕顔荘の町を訪れ、和美にも里見のことを尋ねる。和美は姑から聞いただけだが、戦後のヤミ市で財を成した成金で、若い女のために夕顔荘を建てたと教えてくれる。そして和美が声をかけ、蔦子や平太も話を聞かせてくれる。
     若い愛人は花好きな綺麗な人で庭中に夕顔の花を育てていたから夕顔荘と呼ぶようになった。だが若くして亡くなってしまい、子供もなかったために里見武夫の長男が相続してアパートを始めた。それは和美が結婚する前のこと。だが生まれたときからこの町に住む平太はその頃のことも覚えている。
     アパートになった夕顔荘には麻雀仲間が住んでいて、源次と一緒によく通った。その頃、一階の男のところに掃き溜めに鶴みたいな綺麗なお嬢さんが来ていたこともあった。それは三十年も前の昔話。
     龍一は源次の話も聞いてみたいが、再開発の裏切り者で顔を見せなくなっているという。平太がそう言えばと思い出す。その頃、あそこの袋小路に立って夕顔荘の方をじっと見ている若い男がいた。浮舟から路地を見つめる平太。龍一や蔦子たちも見つめる。
     うだるように暑い夏の日、男は流れる汗をハンカチで拭い、夕顔荘を見つめていた。そのうち笑い声がして、玄関から若い男女が出てきた。ハンカチの男が身を隠す。気づかずに男女は去っていく。再び姿を現すハンカチの男は、綺麗なお嬢さんと男の姿をずっと見つめていた。
     恋の三角関係だと源次と話し合ったと平太がいう。遠い日の切ない話。
     アトリエの杏子に伊織から紀保がいないかと電話がかかってくる。そこへ羽村の秘書もくる。杏子は電話をしながら手紙を渡し、伊織には紀保から連絡がないことを伝え、伊織の居場所も教えてもらう。続けて杏子は龍一にも連絡を入れる。
     夕方、ケアハウスに龍一が訪ねてくる。杏子から事情を聞いて伊織に電話した龍一。紀保がここにくるという伊織の推測とともに、会って話したいことがあるという。伊織は本当に来たのかと驚きつつ、別荘で転倒させた龍一の怪我を気にして謝る。龍一はそれを咎めず、伊織の母を気遣う。母の病気を初めて知った龍一。死んだ父の保険金でなんとかやってきたと伊織。ともに親を失っている二人。みずえは体調も回復し、フキに付き添われて千羽鶴を折っている。
     龍一は本題に入り、夕顔荘で暮らすようになった経緯を尋ねる。伊織は質問の理由がわからないまま教える。
     きっかけは伊織の父の遺品の日記。独身時代、友人に紹介されて夕顔荘で暮らしていることが書かれていた。8年前、上司とぶつかって会社を辞めた伊織は、思い立って父に縁のある場所を訪ねてみた。夕顔荘が残っていることに驚き、そこで柴山工作所の親父さんと知り合い、工作所で働きながら夕顔荘で暮らすことになった。もしかしたら父の青春を懐かしむ気持ちもあったのかも知れない。
     龍一が夕顔荘を紹介した友人の名前を尋ねる。伊織は記憶にない。考え込む龍一。やがて僕の想像通りならこれですべてがつながるという。つながる?と聞き返す伊織。
     ここへ来る前、夕顔荘のことを調べていて加賀から思いがけない話を聞いた。加賀が最後に紀保と会ったとき、みのりが亡くなる直前に電話で誰かと会う約束をしたという話になった。その女の名前を聞いたとたん、紀保の顔色が変わったのだという。加賀が聞いたその女の名前は「サトミ」。
     鶴を折っていたみずえ。その手が止まり、急に目が鋭くなる。気づくフキ。
     「サトミ」と聞いてもわからない伊織。龍一が無言で戸籍謄本を出して見せる。愕然とする伊織。
     フキがドアに寄り、聞き耳を立てる。
     驚愕している伊織。あのメモはやはりエスだった。それで紀保はあのメモを欲しいと。伊織はハッとして駆け出そうとする。龍一が待てよと腕を掴む。今の話が事実なら紀保はここには来ない、行くとすればあの場所しかないと伊織。龍一が抜け駆けは許さないと引っ張る。フキが飛び出してくる。龍一が振り向いた瞬間、伊織はすまないと言って駆け出している。夕暮れの道を伊織は懸命に走る。
     夜の闇に侘しく佇む夕顔荘。遠くで雷が鳴っている。みのりの部屋の南京錠が壊され、床に落ちている。
     紀保はみのりの部屋にいた。黒いコートを纏い、机の上には「デ・ドール」のマカロン。やがて戸が開く。紀保はわかっていたように振り返る。立っていたのは羽村。「手紙に書いた通りよ。私この部屋で、吉川みのりさんを殺したの」。二人は静かに見つめ合う。

    三人で?

    8/25「夜、月の舟」
    伊織が紀保を探して羽村家の別荘を訪れると、紀保はそこにいた。傍らには父と龍一への手紙とともに、犯人に繋がる黒 いコートがあった。 「みのりを殺したのか」という伊織の問いかけに、紀保は頷いた。かすかに予想していたものの、ショックを受ける伊織。ある日突然かかってきた一本の電話が…。事件の発端から殺人までのいきさつを、紀保は告白する。紛うことのない話に 愕然とする伊織。罪を償う前にやらなければならないことがある、と紀保が別荘を出ようとする。そこへ龍一が姿を見せる…。
     

    第62話 「夜、月の舟」  8月25日(火)放送

     龍一と父に手紙を書いていた紀保の前に突然、伊織が現れる。みのりを殺したのはお前なのか。見つめる紀保が答える。そうよ。私が殺したの。微かに予想していたもののショックを受ける伊織。紀保は伊織を見つめ、人形を棚に戻すうちに心を落ち着ける。よくわかったわね。きっかけはガラスペンだと伊織。
     みのりの部屋のガラスペンを見つけた紀保が、みのりが死ぬ前に手紙を書いたことに気づいた。自分はその観察力と勘の良さに驚いた。だが初めから知っていたなら話は違う。
     答えない紀保。だから伊織は続ける。柏木が遺書を持ち去り龍一は逮捕された、紀保は龍一に頼まれて遺書を捜しに来た、二人は共犯関係にある。
     初めはそう考えた。だが、龍一に会ってそうではないとわかった。みのりの死の秘密もきっと秘密でなくなる、俺がそう言っていたと彼女に伝えてくれと聞かせたとき、俺を見返した龍一の目に嘘はなかった。龍一は殺していない。
     黙って聞いていた紀保が口を開く。その通り、彼は被害者で何の罪もない。もし罪があるとすれば名前も知らないみのりの妊娠に言われたままに現金を渡したこと。でもそれもみのりに取られた腕時計を取り返したかったからに過ぎない。龍一は被害者。すべては自分の母が伊織の父を無理やり道連れにして海に飛び込んだことで生まれた。
     そして紀保は、会って間もない頃、ミシンを直してくれたときのことを覚えているかという。
     それは急な喪服のサイズ直しを蔦子に代わって紀保が引き受けたときのことだった。ミシンが壊れていて、伊織は紀保の細かい注文を聞きながら直してやった。お嬢様だと思っていた紀保が意外な職人肌で、不思議な気持ちになったのだった。
     あのとき、私は言ったはずよと紀保が言う。女が針を持つことを忘れてしまったら世界はきっと不幸になる。伊織は大袈裟だと言い返した。すると紀保は、小さなことから世界は崩れていくのだと言った。
     その通り、世界は小さなことから崩れていく。ある日、突然かかって来た一本の電話が私の周りの世界をすべて壊してしまった。
     婚約を控えた紀保に、みのりは龍一の子を妊っていると言った。初めは冗談だと思った。でもみのりは本気で、龍一と結婚するつもりで、そして結婚祝いに私にドレスを作ってくれと言った。誰よりも素敵なドレスを...。たまらない伊織。紀保は言う。その言葉が私に殺意を起こさせた。
     式まで十日となったあの日、みのりに電話して会う約束をした。携帯はみのりとの連絡用に買い求めたもの。今は使っていない。メモはどうしたと伊織が尋ねる。焼き捨てたとにべもなくいう紀保。
     夕方から雨が強くなった。おかげで人目につくこともなかった。そして「デ・ドール」のマカロンを持ち、みのりの部屋の前に黒いコートを着て立った。
     遺書はみのりに書かせた。紀保になりたがっていたみのりに、あなたが私になるためには吉川みのりを消す必要があると話した。みのりは面白がってガラスペンで遺書を書いた。それからマカロンを取り出した。羽村紀保がいまいちばん気に入っているお菓子だ。そう言うとみのりは喜んで口に運んだ。それをじっと見つめていた。
     すべてはうまく行くはずだった。だが柏木が遺書を持ち去ってしまった。それから後はあなたがよく知っている通り。龍一が逮捕され、なくなった遺書を捜そうと夕顔荘に部屋を借りた。そしてあなたと出会ってしまった。
     残酷な事実。伊織はたまらず聞く。憎かったのか、殺さなくていけないほどみのりが憎かったのか? 紀保は一瞬戸惑う。答えろと伊織が迫る。紀保は答える。憎かったわけじゃない。憎まなければならないほど彼女を知っていたわけじゃない。ではなぜ殺したと伊織は興奮する。紀保は言葉を探す。なぜって、私はただ、守りたかった。見ず知らずの誰かに自分の人生を乗っ取られたくなかった。ハッとする伊織。紀保は、みのりが憎かったわけじゃない、本当よと伝える。
     伊織はがっくりと力を落とす。だからって殺すことはなかったんだ。悲痛な痛みに紀保は呟く。そうね。私が龍一さんとの幸せを諦めればすむことだった。いまならきっとそうするでしょうね。ハッとする伊織。
     紀保は伊織を見る。つらい思いをさせてごめんなさいと謝る。伊織は哀しみが込み上げてくる。許してもらおうとは思わない。でも謝るわ。みのりさんにも、あなたにも、あなたのお母さんにも。
     どうする気だと伊織。すると紀保がいう。一生かけて罪を償う。でもその前にやらなくてはいけないことがある。紀保は旅行鞄とコートを手に出て行こうとする。「どこへ行く気だ」と驚く伊織。逃げないと約束する。だから時間をちょうだい。あと少しだけ。紀保!と伊織が呼んだとき、戸口に龍一が立っている。
     なぜ話してくれなかったと龍一。紀保は法の正義を信じる龍一に婚約者が罪を犯したなんて言えなかったと自分の罪をわからせようとする。だが龍一は、一緒に生きると誓ったんだからと愛を見せる。紀保は遮り、もう罪を犯す前の自分と違う、私のために人生を捨てないで欲しいと訴える。あなたの愛にふさわしい人と生きて欲しいと。そして行こうとする紀保。すると龍一が紀保の腕を掴む。驚く伊織。
     自首するんだ。君が刑に服し、罪を償うまで僕は待っている。驚く紀保。腕を掴んだまま龍一がさあと促すとき、待てよと伊織が遮る。
     自首するって何の話だ? 彼女は、誰も殺していない。みのりは自殺だ、自殺なんだ。驚く紀保が咎めようとするのを伊織がさらに遮る。おまえは誰も殺してなんかいない。そして伊織は放せと龍一の腕を掴む。そんなことをしても彼女を救うことにならないと抵抗する龍一。二人が激しくもみ合ううち、紀保は自由になる。いいから行けと伊織が叫ぶ。行こうとする紀保。龍一がその腕を掴もうとする。伊織が阻んで龍一が転倒する。龍一さん! 紀保の足が止まる。同時に杏子が紀保さんと駆け込んでくる。紀保が振り向いた瞬間、伊織が「走れ!」と叫んで紀保の腕を掴んで走り出す。
     日の落ちた砂浜を、紀保の手を引き、伊織が走る。伊織の手には紀保の旅行鞄と黒いコートが握られている。
     ケアハウスのみずえを羽村が訪ねていた。みずえの作る千羽鶴はやっと百に達している。夜の帳が降りていて、帰ろうとする羽村。みずえが突然、胸を押さえて苦しみ出す。羽村が慌てて人を呼ぶ。
     別荘では古傷の痛みで追いかけられなかった龍一が杏子の手当てを受けている。龍一はみのり事件の担当刑事に連絡するという。驚く杏子。龍一は最悪の結果になるよりいいと説く。杏子は紀保の話が事実だとしても、このまま逃げるような卑怯な真似はしないはずだから待って欲しいと訴える。だがあの男と一緒なんだと声を荒げる龍一。すると杏子が土下座する。伊織さんも紀保さんのためにならないことはしないはず。あの二人を信じて待って欲しい。お願いします。龍一は宙を見つめる。
     夜の海に月は出ていなかった。海辺のコテージ。飛び込みで部屋を押さえた伊織が、管理人から蚊取り線香も借りてくる。その背中をどこか頼もしく紀保は見ている。すると伊織のシャツの袖口が破れている。紀保は携帯用の裁縫道具を取り出し、縫うという。いいよと伊織。だが紀保は縫うという。シャツを渡した伊織。携帯電話に気づき、そっと電源を切る。紀保は気づかず縫っている。
     器用に動く紀保の手。見つめている伊織。静かに時間が流れる。伊織はいう。このまま逃げよう。紀保は顔を上げる。みのりのことなら俺も同罪だ。お前の幸せを奪おうとしたみのりの暴走を俺は止めることができなかった。あいつの死の責任は俺にもある。だから一緒に逃げよう。俺は本気だ。
     紀保は針仕事に戻る。「紀保」と伊織が呼びかける。針を動かしていて、やがて紀保はいう。だったらどこか海辺の小さな町がいい。針を動かしながら紀保は続ける。その小さな町で、あなたは自分のアクセサリーを作るの。太陽や星、月や貝殻、身の回りの自然をモチーフにして。あなたがアクセサリーを作るその脇で、私は近所の人に頼まれたものを縫うわ。針と糸を使うものなら何でも。それでもしミシンが壊れたときは。
     俺が修理する。けど上糸と下糸がなかなか噛み合なくて、何度もやり直しさせられて。紀保は伊織を見て、ふっと笑う。ありそうね。ああ。想像して笑う二人。紀保の縫い物が終わる。伊織がふと窓の外を見て立ち上がる。舟だと伊織。空にはいつのまにか三日月が浮かんでいた。それはあのときと同じ月の舟。逃げよう。逃げるんだ。二人でどこまでも。伊織が紀保の手を握りしめる。その手を握り返す紀保。そのまま伊織の肩に身をもたせかけ、二人は寄り添って、いつまでも月を見ている。
     やがて東の空が白み始め、いつしか月もはかなく消えていく。

    リヨン の正体

    8/24「眠れない夜」
    大切な証拠、みのりのメモを持ち去った紀保。不安を感じて寝つかれない伊織に、思いもよらない考えが浮ぶ。紀保と龍 一が共犯だとしたら…。翌朝、紀保は誰よりも早くアトリエに出勤する。杏子が出社すると、完成させた白無垢を使ったドレスの試着を頼む。杏子 はなぜ急ぐのかと不思議に思うが、仕上がりを確かめた紀保は満足げに笑みを浮かべる。その日、伊織は、龍一と夕顔荘の隠れた接点を知る。次々と伊織の知る事件の点が線となって繋がっていく。伊織は紀保に確かめようとアトリエへ行くが、驚いたことに、紀保は仕事で急にリヨンに発つと言って出て行ったのだという 。伊織は杏子にみのりが死んだ事件当日の紀保の行動を確かめようとする。すると龍一が現れ、何も話す必要はないと立 ちはだかる。

    第61話 「眠れない夜」  8月24日(月)放送

     加賀が最後にみのりと話したとき、みのりにかかってきた電話。みのりが会う約束をしたという女の名前を聞いて、愕然とした紀保。加賀は、浮舟で初めて紀保を見たとき、電話の相手がみのりの代わりに自分を脅しに来たのかと怯えたのだと笑った。紀保は強ばる表情を隠して笑い返した。
     その夜、紀保は伊織と会い、唯一の証拠と言える「S」と書かれた電話のメモを預かった。そのメモに火を点ける紀保。男物と見紛う黒いコートを纏い、燃え尽きるメモを冷たく見下ろしている。
     雷鳴が轟く未明。雨が降り続いている。伊織は眠れない夜を過ごしている。何かが自分を落ち着かなくさせている。伊織は考える。
     みのり。4年前ここに訪ねてくるまで会ったこともなかった妹。父を道連れに海で死んだ羽村紀佐を恨み、その娘の紀保を憎みながら憧れた。何から何まで紀保を真似、遂には乾龍一に近づき、無理やり子供を妊った。彼との結婚を夢見て、花嫁衣裳を作ろうとし、クスリの横流しをしていた加賀を脅した。
     それがすべて事実だったとしても殺されていいということはない。だが問題は遺書の存在。伊織は不意に布団から身を起こす。みのりの部屋に行くと遺書を取り出す。
     もし柏木が持ち出さなければ、きっと自殺として処理されていたはず。だが、この遺書は本当に自分の意志で書いたのだろうか。誰かに書かされたとすれば...。傍らにガラスペン。見つめても答えはわからず、戻そうとしてふと目が止まる。ペン先に今もインクが残っているのに気づいたとき、遠い記憶が甦る。
     みのりが死の直前に手紙を書いたと気づいたのは紀保。「見て、このペン先。インクをつけたあとがあるでしょう」。紀保の声が甦る。みのりがペンを買ったというだけで、手紙を書いたと紀保は言った。もしかして。伊織は呟いている。遺書があることを初めから知っていた...。馬鹿なと再び呟く。笑おうとして笑えない。「龍一さんは何もやっていないという証拠を探しに来たの。無実だという確かな証拠をね」。紀保はかつてそう言った。遺書の存在を知っていて、どこかへ消えてしまったそれを捜すためにここへ来たのだとしたら、あの二人は共犯...。
     灰皿で燃え尽きたメモが灰になっている。紀保は灰をティッシュで拭き取る。冷たく無表情にことを進めていく。デスクの荷物を整理する。写真立てに龍一や父との写真。二つ重ねて箱に入れる。
     伊織は考え込んでいる。共犯だなんて馬鹿な。打ち消そうとするが、やがてカーテンの隙間からは朝の光が射している。
     雨はすっかり上がっていた。目を覚ます龍一。頭がひどく痛い。隣に紀保の眠った気配がなく、リビングへ行くと急ぎの仕事があるので先に出るとメモ。そして紀保が作ってくれた朝食が用意されている。
     杏子が出勤すると、紀保がすでにいた。早い出勤に驚く杏子に、紀保がドレスの試着を頼む。それは打ち掛けからリフォームした弥生のウエディングドレス。デザインが出来ずに苦しんでいた紀保を救ってくれたドレスが仕上がったのだった。最終チェックに試着をする杏子。モデルのセリが来るまで待てばいいのにと訝るが、紀保は急にリヨンに出張することになったという。紀保が、杏子がいれば心配ない、アトリエのことよろしくお願いねという。口ぶりがひっかかる杏子。だが紀保は構わず、出来映えに満足そうに微笑む。
     一方、伊織は和美から集会の日に頼んだ調べごとの結果を教えられる。知りたかった夕顔荘の持ち主は里美武夫、戦後まもなく愛人のために夕顔荘を建てた本人はすでに亡く、今は遺族に頼まれて井口不動産が運営、法律事務所が遺産管理をしていた。取り壊しを待ってもらうよう頼むつもりの伊織は礼をいう。和美が雄介を見ないかと尋ねる。まだ戻っていないんですかと伊織。雄介は姿を消している。伊織は再開発阻止のために近所を回る和美を見送るとメモに視線を落とす。高坂法律事務所。何かが頭をかすめる。
     工作所に飛び込む伊織。龍一の名刺を見せて欲しいとフキに頼む。名刺の記載は「高坂法律事務所 弁護士 乾龍一」。龍一と夕顔荘は繋がっていた。
     伊織が飛び出そうとする。フキは柴山家への引っ越しをどうすると呼び止める。伊織は再開発がどうなるか決まるまで動きたくないと言い残して出て行く。そう言うと思ってたと呟くフキ、薬指の指輪を見て寂しく微笑む。すると背後から雄介が出てくる。フキの元に逃げ込んでいる雄介。ここにいていいのかなあという。どうせ誰もいないしいいわと素麺を茹でてやるフキ。
     伊織がアトリエに駆けつける。紀保は不在で、杏子から急にリヨンに発つことになったと聞かされる。いつ?と聞くが、警戒する杏子は用件を言ってくれと拒む。伊織は杏子さんでもいいと質問をぶつける。龍一が逮捕された事件の夜、紀保が何をしてたか、杏子は紀保と一緒だったのか知りたいと。伊織の真剣な眼差しを見る杏子。そこへスタッフが口を挟む。あの日はパンフレットの撮影があったから覚えてる、撮影後に打ち上げに行って紀保も一緒だったと。伊織が安堵するその直後、スタッフが続ける。でも紀保は自分の結婚式の準備があると途中で帰った、打ち上げが始まったのが7時頃、1時間後には紀保は帰ったと。そのとき、まるでアリバイ調べだなと声がかかる。何も話す必要はない、どうしてもというなら彼女の顧問弁護士として僕が話を聞こう。龍一が伊織を睨んでいる。
     二人で話す伊織と龍一。なぜ彼女のことを調べると詰め寄る龍一。伊織は冷静にあしらい、里美武夫とは何者だと切り出す。話をそらすなと龍一。伊織は夕顔荘の持ち主で、その遺産管理が高坂法律事務所、あんたの伯父さんの事務所だと突きつける。
     龍一はうろたえるが、だからなんだ、数多い管理物件の一つを自分が知らなくても不思議じゃないという。追求する伊織。本当はあんたも彼女も夕顔荘を前から知っていたんじゃないのか。世の中に秘密なんてない。バレるのが早いか遅いかの違いだけ。みのりの死の秘密も今に秘密でなくなるときが来る。
     答えない龍一。伊織は目の奥を探る。彼女にそう伝えてくれ。龍一はまっすぐ見返している。そして断ると言う。伊織は見つめ続け、不意に出て行く。追おうとする龍一に電話が入る。
     帰る伊織を、廊下で杏子が捕まえる。単刀直入に尋ねる杏子。紀保さんをどうするつもりなんですか。伊織は心のままに答えていく。どうするって、できれば彼女を自由にしたい。もし誰にも言えない秘密があるなら、それを解き放って、自由になれる手助けがしたい、それだけだ。
     それはあなたと紀保さんが同志だから? 驚く伊織。杏子がいう。紀保の携帯電話に「コンパーニョ」とあった。それはイタリア語で「同志」。そして杏子は、紀保がリヨンに発つ前、海辺の別荘に寄っているかもしれないと住所のメモを差し出す。戸惑う伊織に杏子がいう。嘘じゃない、私も紀保さんの幸せを願う同志ですから。伊織は礼を言って受け取ると急ぐ。
     龍一は電話が終わり、気づく。紀保のデスクにあった写真がなくなっている。引き出しも空っぽだった。
     紀保は別荘にいた。龍一と父に認めた手紙と旅行鞄がある。母の手作りの人形を懐かしく手に取ったとき、伊織が入ってくる。旅行鞄の脇に黒いコート。見た伊織がいう。みのりを殺したのはお前なのか、紀保。見つめる紀保が答える。そうよ。私が殺したの。

    サトミ?

    8/21「裏切り」
     事件の鍵を握る人物の名を加賀から聞かされた紀保は、強い衝撃を受ける。蔦子の店で、再開発反対の集いが賑やかに開かれる。再開発を進める雄介は孤独を募らせる。そんな雄介に、フキがおにぎりを食べさせてやる。雄介は子供の頃のフキへの想いを語る。その夜、みのりのメモを預からせてほしい、と紀保が伊織に頼みにくる。メモに書かれた電話番号を調べたいという。唯一の証拠を手放すことに伊織が戸惑いを見せると、同志の私が信用できないのか、と紀保はいう。覚悟を決めて、伊織はメモを差し出した。夕顔荘を出た紀保は、振り返ると「さよなら…」と告げる。その目に涙が浮かぶ。
     

    第60話 「裏切り」  8月21日(金)放送

     加賀が最後にみのりと話したとき、みのりにかかってきた電話。みのりが会う約束をしたという女の名前を聞いて、紀保は愕然とする。
     雉牟田が来たと耳にした伊織が診療所に駆けつける。中に入ろうとしたとき、紀保が出てきて伊織の姿にひどく驚く。どうかしたのかと伊織。すると紀保は、加賀は大丈夫だと伝えて去っていく。
     やがてアトリエに帰る紀保。デスクに肘をつき、思いに沈む。顔を上げると、その目に涙が光っている。
     その夜、浮舟で再開発反対派の集いが開かれる。伊織や加賀も加わり、和美が音頭を取って、結束して盛り上がる一同。そこへ龍一も顔を出す。視線がぶつかる伊織と龍一。和美が龍一を迎え入れ、拍手が起こり、座はいっそう賑やかになる。
     そんな賑わいを遠くに、輪に入れず、孤独を募らせる雄介は明かりの消えた工作所にいる。そんな雄介にフキがこっそりおむすびを出してやる。みんなの集まりに行かなくていいのと尋ねる雄介。フキは町の将来を考えれば変わることも必要、近所中が反対しても雄ちゃんの味方だという。感激する雄介。おむすびを見つめ、ふと昔話をする。井口不動産の跡取りとして大事にされ、世界が自分を中心に回っているような気になっていた子供の頃、珍しいオモチャを買ってもらったことで仲間外れにされた。そんなとき、フキが励ましてくれた。集団登校でも無視される自分の手をフキが握ってくれ、その時から、大きくなったらフキと結婚するって心に決めていた。
     忘れていた話、知らなかった思いに胸に迫るものがあるフキ。雄介は苦笑している。結局俺、あの頃のままちっとも成長してないんだな。そういうと雄介はバッとおむすびを口に詰め込む。うまいうまいと頬張る雄介。喉に詰まって咳き込むのを、さすってやるフキは切なさが込み上げている。
     その様子を、工場の隅からセリが見ている。セリは寂しそうに背を向ける。
     浮舟では断固反対じゃなく頑固反対。垂れ幕の間違いで盛り上がる一同。その外で、涼む龍一に加賀が声を掛ける。弁護士はストレスがたまるだろうから薬に頼りたくなることもある、頑張り過ぎないことだとそれとなく忠告する加賀。気色ばんでしまう龍一。そこに蔦子がおでんが出来たと呼びにくる。龍一はまた伺いますと立ち上がる。
     一方、伊織は和美を店の片隅に呼ぶ。何か調べ事を頼むと店を出て、賑わいを後にする。夕顔荘へ戻ると階段の陰に、紀保がいた。
     その頃、フキがこっそり雄介の皿を片付けていると、セリがバッグを手に出てくる。ここにいても面白いこともなさそうだからとセリはマンションに帰っていく。隠れていた雄介も出てきて、俺も行くよと出て行こうとする。雄介さんと呼び止めたフキ、いつでもおにぎり食べにきて、雄ちゃん、一人じゃないからと声を掛ける。ありがとうと言い残して、雄介は去っていく。フキは寂しさを覚えている。
     紀保を部屋に招いた伊織。紀保が再開発について謝る。進めているのは間違いなく父の会社だった、でも自分にはどうすることもできない、ごめんなさいと。そしてみのりの事件についていいことを思いついたという。「S」のメモの電話番号が乾龍一の「い」なのか、使われてない番号でも知り合いの弁護士に頼めば調べる方法が見つかる。だからメモを預からせて欲しいと。
     伊織は躊躇し、唯一の証拠だからメモしてくれと答える。私が信用できない?と紀保。ハッとする伊織。私はあなたの同志なのよ。伊織は覚悟を決めて、メモを差し出す。ハンカチにメモを挟んだ紀保がふっと微笑む。その笑みに思わず視線が逸れる伊織。
     用事の済んだ紀保がふと、静かねという。お盆休みで誰もいない夕顔荘。二人は互いにお盆の予定を尋ねる。フキとみずえに会う伊織。龍一と父と食事する紀保。それが互いの予定。そして、話すことがなくなる。紀保が帰るという。送るという伊織。紀保は平気だと断り、戸口に向かう。去っていく背に、伊織は思わず「紀保」と呼び止める。立ち止まる紀保。伊織は言葉を探して、言う。そのメモ、乾龍一じゃないことを祈ってる。背中で聞いた紀保、笑顔で振り返るという。ありがとう、さようなら。紀保が出て行く。追いかけようとして自分を押しとどめる伊織。
     紀保は夕顔荘から出る。振り返らず歩き出し、立ち止まる。振り返る紀保の目には涙が浮かんでいる。「さようなら」。紀保は想いを振り切ると歩き出す。あとには夕顔荘の玄関が静かに浮かんでいる。
     翌日。伊織はフキとともにみずえのケアハウスを訪れる。ぎこちない二人。廊下でフキがいう。最近いろいろあったけど、約束通りお母さんの前では笑顔でいましょうと。
     みずえは千羽鶴を作っている。笑顔で挨拶する伊織とフキ。みずえは伊織と結婚するフキを覚えていない。そんなみずえのためにフキは写真を取り出す。それはドレスの仮縫いをしたときのフキの花嫁姿。みずえは綺麗だと喜ぶ。だが次の瞬間、この人、と呟き、いきなり写真を押しやる。写っていたのは仮縫いをする紀保。ごめんなさい、許してとベッドで丸くなり震えるみずえ。見合わせ不安を覚えるフキと伊織。誰も怒っていないよとあやす伊織にも訳が分からない。
     その日の午後、龍一は引き出しを探す。紀保が顔を出し、書類を探していると誤摩化す龍一。そこへチャイムが鳴り、羽村が到着する。玄関へ行く紀保。龍一はあるはずのものが見つけられず、笑顔が消える。
     羽村が婚姻届は出したのかと尋ねる。戸籍謄本を取り寄せそびれている龍一。申し訳ありませんと謝りつつ、思いつき、社長の前で婚姻届にサインしようという。一瞬驚く紀保、そして賛成する。婚姻届を龍一が取ってくる。それを見て、紀保はペンを持ってくる。テーブルに置いたのはガラスペン。紀保が綺麗でしょというペンを、龍一は怪訝そうに使おうとする。食い入るように見つめる紀保。だが羽村が、婚姻届には割れないペンの方がいいと万年筆を出す。社長のおっしゃる通りだと龍一が万年筆を取る。そしてサインする龍一。紀保もならい、婚姻届が書き上がる。紀保は万感の想いでいる。
     同じ日、浮舟で働く蔦子に、護が店の権利証を差し出す。あんたにやったと強がる蔦子に護がいう。姉ちゃんが幸せになったからって誰も迷惑しない、少しは自分が幸せになることを考えなよ、自分はデキの悪い弟だが、姉ちゃんの幸せを願う気持ちは半端じゃないから、それだけは信じて欲しいと。部屋に入る護。見送った蔦子の目にはうれし涙が込み上げている。
     夜になる。風呂上がりの伊織は縁側に佇み、ふと空を見上げる。空に浮かぶ月が雲に隠れようとしていた。
     その月を紀保は見ていなかった。暗い寝室で、眠り込んでいる龍一。その姿を見下ろしていた紀保。手には錠剤の瓶を握っている。紀保はやがて、にこりともせず、寝室を出て行く。
     伊織は部屋で思いに沈む。何かが心にひっかかっている。メモを預からせて欲しいと言った紀保。「私はあなたの、同志なのよ...」。そしてメモを受け取り、ハンカチに挟むと微かに浮かんだ笑み。不安が忍び寄り、伊織は「紀保」と声に出す。
     空に稲光が走り始める。アトリエの鏡の前に、黒いコートを着込んだ人影。男かと見紛うその人影は紀保だった。やがてテーブルに向かうと、伊織から預かったメモに火を点ける。燃え尽きるメモを紀保は冷たく見下ろしている。

    演歌か…?

    8/20「男の火花」
     再開発の黒幕が羽村だと知った伊織。調停役の龍一に、夕顔荘を壊して、みのりの事件の証拠を消し去りたいのか、と詰め寄る。伊織こそ自分を犯人に仕立て上げて、紀保を奪いたいのだろう、と龍一はあざ笑う。みのりの事件が解決するまで、町を取り壊すのを待ってほしい、と伊織は羽村に直談判する。伊織の技術力をかっている羽村は、羽村グループの一員にならないか、と伊織を誘う。紀保は診療所を閉めるという加賀に会いにいく。たまたま紀保にかかってきた携帯の着信音で、みのりと最後に話したときのことを思い出す加賀。あのときもみのりに電話がかかり、みのりはこれから会う予定の相手の名を呼んだと…。

    第59話 「男の火花」  8月20日(木)放送

     紀保が龍一の服用する錠剤の瓶を見つけた頃、夕顔荘の町に龍一が姿を見せていた。再開発の主体が羽村エンタープライズだと和美から聞かされたばかりの伊織は、再開発の賛成派と反対派の仲介役に収まっている龍一を夕顔荘に呼ぶ。
     再開発の主体が羽村エンタープライズだというのは本当なのかと問い質す伊織。すると龍一は、根も葉もない噂、デマだと笑顔で言い切る。シラを切る龍一に伊織は、再開発は龍一が羽村に頼み込んだのだろうと切り出す。再開発を口実に夕顔荘を取り壊して、みのりの事件の証拠を消し去りたい。つまり、みのりを殺したのは龍一だろうと。
     聞いていた龍一が笑い出す。再開発なんて蔦子たちから聞かされるまで知らなかった。伊織は、社長の娘婿になる龍一が知らないはずはない、知っていて何食わぬ顔で仲介役を引き受けたのだと食い下がる。すると龍一は怒気を見せ、伊織は紀保を好きで、自分を犯人に仕立て上げて彼女を奪いたいのだと言い放つ。思わず胸ぐらを掴む伊織。どうあがこうと紀保が君のものになることはない、潔く諦めろと龍一。今はみのりの話をしてるんだと激しく怒る伊織。そこへフキが駆けつけて止める。伊織を押しのけ、龍一を庇って立つフキ。龍一を睨んだ伊織は、きっと証拠を掴んでやると出て行く。残されるフキ。怒りをたたえて見送る龍一。
     アトリエで紀保は考え込んでいる。杏子が白無垢の反物をトルソーに巻き付けて、ドレスの生地に活かすアイデアを確かめる。成功を確信した杏子が、このアイデアは紀保が打ち掛けのリフォームを引き受けたことがきっかけだったと話す。自分は反対したけれども、自分の国にこんなに素晴らしいものがあると気づけたと。紀保が嬉しく、杏子の手を取った時、いきなり伊織が飛び込んでくる。紀保は二人だけになろうとはせず、その場で用件を話すよう告げる。
     紀保から頼んで羽村社長に会わせて欲しいという伊織。再開発を企てるのが父の会社だと知って驚く紀保。だが、娘の頼みでは聞くはずがないことを知る紀保は、父の仕事に口を挟みたくないと仲介を断り、代わりに連絡先だけを伝えようとする。その様子を見て取った伊織は踵を返す。ところが、そこへ羽村が来合わせる。
     杏子とともに廊下へ出る紀保は、伊織に話す場を提供している。
     再開発の中止が無理なら、みのりの事件が済むまで待って欲しいと伊織は羽村に頼む。自殺で解決したから龍一も無罪になったんじゃないのかと困る羽村。伊織は自殺でないという証言が出たのだと説明する。羽村は証言の中身を尋ねるが確度のない話で伊織は答えない。自分の話が弱いのがわかる伊織は、以前、何かあれば力になると約束してくれた羽村の言葉に縋るしかないのだと懇願する。すると羽村は、できることなら喜んで力になろうと告げ、この機会に羽村グループの一員にならないかと言い出す。再開発の中止はできないことだとやんわり示している羽村。伊織が前を向くためなら力になるというのだった。柴山工作所の技術力は高い、羽村の資金力があれば大きな会社になることができる。それは伊織の決断次第だ。羽村はいう。君にはこれまで不運なことが多過ぎた。だが、不運なことが不幸なのではない。不運にいつまでもこだわって、乗り越える努力をしないことが不幸なのだ。君には不運を乗り越える意志と力を持って欲しい。
     無理心中で苦しめられた者として、伊久馬の息子に語りかける羽村。聞いていた伊織。話が終わるという。不運を乗り越える力のない者は、不幸になっても仕方がないということかと。世の中には強くなろうとしてもなれない人間が大勢いる。強い人間の論理に与する気はありません。
     伊織は毅然として一礼して出て行く。
     廊下へ出た伊織。そこに紀保がくる。憤りを抑えて言葉も短く立ち去る伊織。紀保はこらえて見送ると、アトリエに入る。
     寂しさを覚えている羽村。紀保が来て、再開発の話を止めて欲しいと話しかける。羽村は社長の顔に戻り、自分もアトリエの経営の足は引っ張らなかったはずだと紀保に口を挟ませない。
     それからまもなく、和美たちの反対の署名運動は芳しい進展を見せていない。要するに何が大事かなんてみんなわかっていない、人生に大事なものがなにか、なくなってから気づくのだとこぼす和美。そんななか、紀保は浮舟を尋ねてみる。顔を出すなり、和美や良枝たちから父に再開発を止めるよう頼んで欲しいと懇願される。苦しい紀保。そこで加賀診療所も閉鎖すると聞かされる。
     加賀はすでに片付けを始めていた。護が手伝っている。診療所がなくなれば困る人がいるんじゃないかと言ってみる紀保だが、詮無いばかり。するとそのとき、騒々しい物音がして、夥しい血を流した怪我人を連れて雉牟田が入ってくる。それは加賀を刺した犬山だった。だが加賀は躊躇も見せず、治療に取りかかる。加賀に指示され、手伝う紀保、そして加賀は、護に救急車を呼ばせる。すると雉牟田が刃物を出して、護を止める。かつて加賀に手当てとともに通報されて逮捕された護。犬山は息も絶え絶えに死にたくないと呟いている。護は刺すなら刺せと雉牟田に初めて対決する。雉牟田は覚悟を見ると、治療代を放って出て行った。護が電話するなか、紀保は加賀とともにこの町の診療所で懸命に汗を流す。
     犬山は一命を取り留め、救急車で運ばれて行った。そこに雄介が診療所の売買契約書を持って来る。すると加賀は、診療を続けると断る。自分の使命を思い出した加賀。驚く雄介が食い下がろうとするところへ、護が戻り、外へ連れ出す。
     怒る雄介。すると護は、すまないと謝り、浮舟の権利証も返してくれと土下座する。護の裏切りに愕然とする雄介。二人でデカイ仕事をしようと約束したじゃないか。護は土下座したまま、町の将来のためじゃなく、誰かを見返したいだけなんだろと訴える。デカイ仕事と言っても誰かに使われてるコマに過ぎない、そんなことよりここでもう一度やり直したい。頭をすりつける護。雄介はどうしようもなく、憤りと哀しみに護を罵って去って行く。
     治療の後片付けをする紀保。それが済むと、加賀に教えて欲しいことがあると、瓶を取り出す。それは龍一が服用している錠剤の瓶。加賀は外国製の精神安定剤だと言うと、素人判断で服用すると強い依存症になったり、脳にダメージを与えたりする危険があると教える。ショックを隠して礼を言う紀保。加賀は、紀保が服用しているのじゃないと想像していて、早く医者に見せるよう促す。偉そうに言えた義理じゃないとひとりぐちる加賀の脳裏に、みのりの姿が甦る。
     薬を雉牟田に流していた自分。その自分を強請ったみのり。300万と聞いてこれで最後なんだなと念押しした自分。そのとき、携帯電話の音が聞え...。
     ハッとする加賀。聞えてきた電話の呼び出し音は紀保のもので、紀保が電話に出ている。やがて電話を切る紀保。帰ろうとすると、加賀は考え込んでいる。あの日のみのりも、あの話をしているとき、電話が鳴ったんじゃなかったか。そして電話に出て、ちょうど今の紀保と同じように話していた。そしてその相手と会う約束をした。
     ハッとしてその相手が誰かを聞く紀保。加賀は思い出す。みのりは名前を呼んだ。その名前は。
     その頃、伊織が診療所に向かっている。前までくると足を止めてためらう伊織。
     名前を聞いた紀保は愕然とする。

    龍一に W質問

    8/19「偽りの笑顔」
     雄介が進める再開発を巡って、町の人たちが賛成派と反対派に分かれて対立する。そこへ龍一が来合わせる。住民に信頼されている龍一は、にこやかに両派の調停役を引き受ける。再開発の話を耳にした紀保は、あの町がなくなるのは寂しい、と龍一に語る。そして、気になっていた龍一の生まれた場所について、さりげなく聞く。その日、同じ質問を伊織からも投げかけられていた龍一は逆上。今でも二人きりで会っているのか、と紀保につかみかかる。龍一を信じたいが、不安にかられた紀保は、龍一の書斎をこっそりと調べる。引き出しの中に、精神安定剤の瓶が…。再開発に反対する雄介の母・和美が、このプロジェクトの黒幕をつきとめる。
     

    第58話 「偽りの笑顔」  8月19日(水)放送

     夕顔荘を中心にかなりの家や商店が立ち退きに同意してしまっていた。浮舟に集まった和美たちが反対の署名運動を始めることに。源次も反対かと思いきや、源次は雄介に切り崩されてしまっている。そこへ雄介が顔を出す。後ろには賛成派の近所の若者たち。来合わせたフキも町の発展のためなら立ち退いてもいいという。もう若い世代に任せろと余裕を見せる雄介。反対派と賛成派がぶつかりあって大騒ぎに。そこへひょっこり龍一がくる。和美が渡りに舟と捕まえて、相談に乗って欲しいと頼み込む。
     賛成派と反対派の調停役になった。夕顔荘の庭で龍一は伊織に快活に話す。この不景気に誰が再開発なんてとこぼす伊織。龍一は再開発をきっかけに消防車が入れるようになったりいいこともある、開発業者との交渉次第じゃないかと客観的な意見をいう。それに答えず、伊織はビールを差し出す。まだ日が高いと断ろうとする龍一。お盆休みだと言い添える伊織は、犯人と疑う龍一をさりげなく観察しようとしている。さりげなく受け取る龍一。表面上、にこやかに乾杯する二人。龍一は龍一で脳裏に思い出していることがある。それは羽村の言葉。
     羽村は龍一に言った。再開発の交渉が進むよう水面下で動いてくれと。計画を聞いて驚いた龍一。すると羽村も夕顔荘が龍一逮捕の事件現場だと知って驚いた、だがなおさらこの仕事は龍一に適任だと言った。龍一にとって因縁の夕顔荘を地上から永遠に消してしまう役目なのだからと。この計画は羽村エンタープライズにとっても、龍一にとっても大事な一戦だ、不用意にボールを落とすな...。
     「必ず」と答え、そして今、龍一はにこやかにここに立っていた。
     何も知らない伊織が、どうしたと声をかける。昼間のビールは効くとはぐらかす龍一。すると伊織は手応えを感じながら、立ち退きに抵抗できないかと尋ねる。弁護士としては力になるが友人としては賛成できない、フキと新しい人生を始めた方がいいと伸びやかに忠告する龍一。話を聞いた伊織は微苦笑し、頃合いと見てさりげなく尋ねる。ところで、あんたの生まれはどこだっけ、東京? それとも...。伊織はそっと龍一を見る。
     その頃、紀保はアトリエでセリにコサージュの作り方を指導している。姉に作ったのをきっかけに興味を持ったセリは、意外に器用に針と糸を動かす。そんなセリから再開発の話を聞かされて紀保は驚く。セリは嫌で町を出たのに消えてしまうと思うと妙な気分、私、あの町が好きだったのかなと呟いている。
     夜。自宅で働く龍一に、紀保は龍一が関わっているとも知らず、セリに聞いた再開発をどうにかできないかと聞いてみる。だが龍一は難しい顔でパソコンに没頭している。諦めた紀保はココアを入れてやる。ようやくパソコンから顔を上げる龍一。紀保はさりげなく聞いてみる。龍一さんの生まれはどこだっけと。
     龍一は答える。東京だけど、厳密に言えば横浜。父が海外赴任中、母が実家の横浜で自分を生んだ、一年後に父が戻って東京で暮らすようになった、実質は東京生まれの東京育ちだと思っていると。そして龍一は続ける。この話を話すのは今日これで二回目だ。
     紀保に見せず、苛立っていた龍一。驚く紀保。それが誰か、言わなくても心当たりがあるはずだと龍一。紀保が明るく偶然ねと逃げようとすると龍一が追ってくる。君もあの男も僕がどこで生まれたかどうしてそんなに気になる。二人で何をやってるんだ。紀保の腕を龍一が掴む。好きなんだろ、瀬田伊織が! ハッキリ言ったらどうだ! 驚く紀保。龍一は紀保がともに生きようとしていることをまるで信じていないのだ。二人で会って何をしてる? 言うんだ! 放してと手を振りほどいた拍子に、紀保のカップが床に落ちる。視線がぶつかる。紀保はいう。ええ、会ってる。会って話をしてる。それだけよ。何を話すことがあるといきり立つ龍一。紀保は叫ぶ。龍一こそ何か隠してることはないのか、あるなら話して。
     だが龍一は紀保の訴えが耳に入らず、聞いてるのはこっちだと手を振り上げる。驚く紀保。ハッとする龍一。紀保の目に涙が浮かぶ。寝室に走り去る紀保。龍一は茫然自失で立ち尽くす。
     寝室で泣くまいとこらえる紀保。龍一は自己嫌悪に襲われ、どうしようもなく錠剤の瓶を取り出し、薬をガリガリと口に放り込んでしまう。
     その頃、伊織はみのりの部屋で妹の遺書を見つめていた。アイツだ、あの男がおまえをと呟く伊織。脳裏に結ばれるイメージは、みのりの部屋の前に立つ黒いコートの人影。その顔は龍一。
     その時、扉が開き、フキが入ってくる。気まずく視線を逸らす伊織。工場を明け渡すことを怒っているかと聞くフキ。伊織の傍に座るという。この場所を離れない限り、伊織はいつまでも一年前のあの夏から自由になれないと思ったからだと。伊織の膝にフキが手を置く。その手に光る銀の婚約指輪。フキはいう。亡くなったみのりの分まで幸せになろうと。指輪を見つめていた伊織、やがてフキの背に手を回し、床に横たえる。優しく口づけようとし、その瞬間、不意に止まる伊織の脳裏に、そこに横たわっていたみのりの遺体が甦る。伊織はフキから身を離す。あの夏に決着をつけるまで、もう少しだけ好きにさせて欲しい。忘れることでは自由になれない伊織が出て行く。ドアの外で勢いよく歩き出す伊織。残されたフキ、うなだれて銀の指輪に触れている。
     紀保は明かりも点けず、ベッドに腰掛けている。扉が開き、龍一が入ってくる。さっきはごめんと謝る龍一。紀保は首を振る。仕事のストレスをぶつけるなんて最低だと龍一が紀保を抱き寄せる。紀保もごめんなさいと謝り、心配なのだという。龍一が紀保を抱き締め、ベッドに横たえる。優しく口づけて、その瞬間、不意に止まる龍一の脳裏に、みのりに押し倒された記憶が甦る。龍一は紀保から身を離すと目を泳がせて出て行く。忘れることでは自由になれない龍一。驚き、龍一を追おうとする紀保。ドアの外で紀保が出てくるのを怖れるように龍一がしゃがんでいる。気配を感じ、ドアの内で龍一を案ずる紀保。
     翌日、加賀が診療所を廃業すると雄介と護に告げる。喜ぶ雄介、護はこれでいいのかと心が残ってしまう。だが加賀は潮時だと割り切っている。
     加賀の廃業に驚く蔦子。護は権利証は高く売るからその金で加賀を追いかけろという.遅かれ早かれ護にくれてやるつもりだったから自分のことは気にするなと笑顔を見せる。すると護は俺や紅夏のために苦労してきたんだ、少しくらい自分の幸せを考えろという。俺を信用してくれ、俺はあんたの息子なんだと言いかけて勝手にしろと出て行く護。入れ替わりに和美が飛び込んできて、わかったのだと叫ぶ。
     一方、龍一を送り出した紀保は龍一の持ち物やパソコンを調べる。龍一が犯人であって欲しくない紀保。疑いたくはない。けれども龍一の身に何かが起こっているのは確かだった。やがて紀保は錠剤の瓶を見つける。精神安定剤だと気づくと、不安が込み上げてくる。
     和美は夫と手分けして、ついに再開発の計画主を突き止めたのだった。来合わせた伊織もその名を聞く。直接買収社は小さな建設会社、その後ろにいたのは紀保の父親の会社、羽村エンタープライズ。驚く伊織と蔦子。そのとき、龍一がにこやかに顔を見せる。

    蔦子 大泣き

    8/18「危険」
     町の再開発のために土地の買収を目論む雄介が、工作所にも手を伸ばす。伊織は工場を動くつもりはなかったが、フキは高く売れるなら土地を手放してもいいという。紀保への愛に傷つき、仕事を休んでいた杏子が復帰する。紀保は以前と同じようにかけがえのないパートナーとして杏子を迎え入れる。そんな杏子に対して、龍一が和解する。再開発にからんで、護が蔦子の店の権利書を勝手に持ち出す。それを知った蔦子と護が大喧嘩になる。龍一が犯人だという伊織の推理を信じないと言った紀保だが、龍一の微かな食い違いに気づく…。
     

    第57話 「危険」  8月18日(火)放送

     様子のおかしい龍一。紀保は休むように言ってみるが、龍一は聞き入れず、先に眠るよう紀保に促してパソコンに向かう。
     寝室に戻る紀保の耳に伊織の声が残っている。花嫁衣裳を作って龍一と結婚しようとしていたみのりが龍一に殺意を起こさせた...。一事不再理が龍一の狙いだとしたら...。嘘よと紀保は小さく呟いている。
     翌日、和美が雄介を問い質し、再開発が本当だと突き止める。おおっぴらに発表できるまで内密にするよう頼まれていると雄介。依頼主を明らかにしない。和美は顔を真っ赤にして怒るが、雄介は、再開発のどこが悪いんだ、このままでは町に未来はないと開き直って出て行く。そんな雄介を伊織がつかまえる。
     工場の作業場で話す二人。夕顔荘の取り壊しには抗えずにいた伊織だが、工場の買収には親父さんが作り上げた工場だから動く気はないとはっきりいう。ここには親父さんの魂があると。すると雄介は、個人のエゴを押し通してる時じゃないと強弁し、この町で育ってない伊織にはわかってもらえないだろうと捨て台詞を吐く。ヨソ者だって言いたいのかと気色ばむ伊織。雄介はわかってりゃ世話ないと怯まない。そこにフキがセリと来て、割って入る。セリから雄介が土地を欲しがっていると聞かされたフキ。
     フキは雄介の意志を確認すると、いいわ、という。驚く伊織。フキは、いいものを作るという父の魂さえ守っていれば作る場所はどこでも同じだという。伊織が止めようとするが、町のためになるなら父もわかってくれると言い切る。雄介は小躍りして交渉のために出て行く。フキが、賛成してくれるわよねと伊織に求める。伊織は社長はフキさんだからと、背を向けて出て行く。残されるフキ。セリが心配するが、いまは昔と違うというフキには覚悟が漂う。
     一方、アトリエでは杏子の休みが続いている。そんななか、ヨーロッパからの便が事故に巻き込まれ、オーダーメイドのレース生地が届かなくなる。納期に間に合わせるため、スタッフが騒然とするなか、杏子が戻ってくる。騒ぎに面食らう杏子だが、事情を知ると白無垢用の反物を広げる。紀保が弥生の打ち掛けをドレスにリフォームするのに反対した杏子はすでになく、休暇中、織物の産地を回っていたというのだった。ヨーロッパの生地にも負けないドレスが出来るという杏子。生地に驚く龍一。紀保は反物を確かめ、生地に会わせてデザインをやり直すと決心する。納期の客には事情を話して相談することになり、再び紀保と杏子は手を携えて働き出す。
     そんな二人を見ていた龍一が杏子に声をかけ、これからも紀保のパートナーでいて欲しいと礼をいう。すると杏子も自分の非を詫びる。紀保さんをお願いしますという杏子、それでも、ハムラキホのいちばんのファンであり、理解者は自分だと言い添える。わかってると答える龍一。杏子は一礼して縫製室に向かう。龍一はそんな杏子を静かに目で追う。
     その日の午後、護が浮舟の権利証を盗んで、蔦子に追いかけられる。逃げる護を工場で捕まえてしまう柏木。
     蔦子が権利証を返せと護を激しく詰る。姉ちゃんのためだ、店は俺に任せろという護がいつものように金を欲しがってるとしか見えず、語気を強める蔦子。自分なりに将来を考えて金を欲しがっていた護が切れて、先々姉ちゃんの面倒見るのは俺しかいないんだ、それが嫌なら自分のガキでもこさえとくんだったなと言い放つ。今からでも遅くない、一人ぐらい生んでみたらどうだと。蔦子がいつになく興奮し、手を振り上げる。ぶつならぶてと憎たらしい護。蔦子は不意に口を噤んで出て行く。
     蔦子が浮舟に飛び込むと、反物の相談に紀保が入ってきたところ。目に涙の浮かぶ蔦子は紀保の話も聞かず、厨房に逃げ込むとわっと泣き出す。身も世もあらず泣く蔦子に、紀保はどうしたものかと立ち尽くす。
     やがて泣き止んだ蔦子は紀保に話す。前に、本気で好きになった人がいたという話を覚えているかと。それは紀保が花火大会の日に伊織と別れた直後、アトリエを訪ねてきた蔦子が、恋を諦めちゃいけないと話してくれた、芸者修行をしていた頃の蔦子の恋。そして蔦子は話す。
     実はその相手のお坊ちゃんは、龍一に似た人だった。初めて龍一に会った時、あの人が現れたのかと驚いたほど。もちろん別人だったけど、優しくて誠実で頭がよくて、龍一と話すと、あの頃に戻ったような気がして華やいだ。だから龍一が来た時には、横浜生まれだという龍一の出身を聞いたり、茶菓子を出しておしゃべりをしていたのだ。
     ところが護はそんな思いも知らず、自分の息子ほどの歳に岡惚れもいいとこだと茶化す始末だった。二人は歳も近いのになんでこんなに違うのかと情けなくなった。それも自分のせいなのかも知れない。恋した相手と別れたあと、お腹に赤ちゃんがいるのに気がついた。親にも内緒で生んだけど、親にバレて、言われるままに自分の弟として籍を入れることになった。
     それが護なのだった。情けなくて話してしまったと笑う蔦子。墓の中まで持って行くから忘れて欲しいと頼む。紀保は蔦子の思いを受け止め、はいと約束する。
     飛び出した蔦子を追ってきた伊織が、厨房の外でその話を聞いていた。黙って静かに行こうとした伊織。振り返るとそこに、護がいた。護は黙って出て行く。
     路地まで護を追う伊織。護が振り向き、いう。俺はこれまで通りデキの悪い弟だ。いいも悪いもない。向こうが墓場まで持って行くならこっちもそうするのが男だろ。そうだろ。そうだって言えよ。伊織の胸ぐらを掴む護は泣いている。紅夏が顔を出す。抱き締める護。伊織は静かにその場を離れる。
     戻ってくる伊織が浮舟を出た紀保と出くわす。
     夕顔荘で話す紀保と伊織。聞いてしまったと打ち明けた伊織は、護が知ってることは蔦子には内緒にするよう紀保に話す。そして、その後変わったことはと尋ねる伊織。それが龍一のことだとわかっている紀保だが、何かって聞き返す。咎めるように見返す伊織。別に何も、伊織が心配するようなことは何もないと答え、まだ疑っているのと聞く。伊織は蔦子に黒いコートの目撃談を確かめたことを話し、身長を説明して、不意に考え込む。蔦子がおかしなことを言っていたという伊織。それは龍一が横浜生まれだと蔦子に説明したという話。聞いていてひっかかりを覚えたのを紀保も覚えていた。伊織が言う。龍一は東京生まれのはずだ、みのりの殺害容疑で逮捕されたときに調べたので間違いない。紀保が知る龍一も東京生まれのはずだった。
     東京生まれと知られたくない理由があったんじゃないかと伊織。うすうす察しても答えない紀保。伊織は土地勘だと指摘する。ヤツは土地勘があるとここの人間に知られたくなかった、目撃者の蔦子には特に知られたくなかった。
     止してと紀保が止める。初めから龍一を疑っているから何でも犯人に結びつけたがる、そういう考え方は危険だ。すると伊織が言い返す。犯人じゃないと信じたくないだけでは、それこそ危険だと。あんた自身の身が危ない。驚いて見つめる紀保を伊織が見つめ返す。
     その頃、龍一が羽村に会っていた。この計画は羽村エンタープライズにとっても、龍一にとっても大事な一戦だ、不用意にボールを落とすなという羽村。龍一は「必ず」と返事をしている。

    ストーカー化する 伊織

    8/17「心配」
     紀保は龍一と暮らし始めるが、龍一の様子がどことなくおかしいことに不安が募る。そんな紀保を伊織が呼び出す。伊織はみのりのメモを手がかりに、龍一がみのりを殺した犯人ではないかという推理を話す。龍一は、紀保の愛を利用して、事件を仕組んだのではないかと…。そんなことは信じないと抗う紀保。伊織は、龍一の傍にいる紀保を案じ、「心配なんだ!」と腕を掴む。握った手の強さに、紀保はハッとする…。龍一を疑う伊織は町で事件当時のこともう一度調べ始める。その矢先、蔦子から、夕顔荘が取り壊されるだけじゃなく、この町一帯が再開発されると聞かされ、唖然とする…。
     

    第56話 「心配」  8月17日(月)放送

     紀保と結ばれようとした龍一が不意に身体を硬直させ、寝室へ駆け込んだ。クローゼットのスーツに隠した錠剤の瓶を取り出し、水もなしに飲む。心配した紀保が寝室まで様子を見に行く。瓶を隠して振り向く龍一。その口元に歪んだ笑みが浮かぶ。紀保は背筋に冷たいものが走る。
     みのりのメモを見つめて考え続ける伊織。長い時間が過ぎ、やがてメモを横から眺めた拍子に気づく。向きを変えたそれは「エス」ではなく「い」。龍一は初めから一事不再理を狙ったのか。だとすれば紀保は殺人犯のそばにいることになる。今もこの夜に。矢も盾もたまらず携帯電話を取る伊織、キイを押そうとして、ためらいが走る。
     キッチンへ向かおうとした龍一が足元をふらつかせる。ベッドに寝かせて水を用意してやる紀保。ゆっくり休んでと伝えて出て行こうとすると龍一がベッドの中から手を掴む。これからはいつも一緒だねと龍一。微笑む紀保。部屋を出ると笑顔が消える。
     翌朝。龍一が休日出勤する。笑顔で送り出す紀保。龍一が出て行くとその顔に愁いが浮かぶ。そこへ携帯電話が鳴る。
     伊織が部屋から出ると工員たちがお盆なのに夕顔荘に残っていて、引っ越しの準備をしている。不便でもここの暮らしが好きだと言ってみる伊織。そこへフキが来て、そういう時代じゃないから仕方ないと口を挟む。引っ越しの支度が済んだら帰省する工員たちに土産を用意するフキ。伊織にも引っ越しの手伝いをしようかという。伊織は自分はまだいいと言い残して、出かけていく。
     浮舟で、暑くて氷を背中に背負って歩きたい和美。蔦子や良枝や源次、平太たちが再開発の噂を聞いたと確かめようとする。初耳の和美はラーメン屋の移転も単独に再出発するだけだと聞いていて、再開発なんてあるわけないと太鼓判を押す。安心する一同。だが、蔦子がもらした夕顔荘の取り壊しの話を聞いて、和美は不安になる。
     紀保も休日出勤したアトリエ。働いていると伊織がくる。今朝の伊織の電話に仕事場に来てもらった紀保。伊織が用件を話す。それは「S」について。諏訪杏子じゃない、杏子は無実だと紀保。伊織は頷き、「エス」ではなく「い」じゃないかという。乾龍一のことかと聞き返す紀保。「い」と聞いて龍一を思い浮かべるだけの不安と予感を抱えている。伊織はそうだと答える。うろたえ、ありえないという紀保。伊織が考えを話す。
     龍一が初めてみのりとあった大阪のホテルの話。龍一が言っているだけで誰も真実は知らない。本当は二人は知り合いで、龍一がみのりをホテルに呼んだのかも知れない。結果、妊娠し、結婚を迫られて、龍一は殺意を抱いた。
     やめてと遮る紀保。伊織は、みのりは花嫁衣裳を作ろうとしていた、本気で結婚しようとしていたと被せる。証拠がないと紀保。証拠がないのは大阪のホテルの龍一の証言だって同じだ。紀保もそれはわかっているはずだと伊織。
     遺書は龍一が書かせた。柏木が持ち去ってしまったが、それこそが龍一の狙いだった。つまり、一事不再理、一度無罪の判決が出れば二度と罪に問われない法の正義。逮捕されても紀保が自分の無実を証明するに違いないと計算して。
     柏木が遺書を持ち出したのは偶然だと抗弁し、ハッとする紀保。柏木が遺書を持ち出さなければ、初めから自殺と処理され、龍一はどちらにしても罪を免れるのだ。
     捜査によっては万一ということもある。だから龍一はあらかじめ自分に疑いが向くように細工しておいた。紀保にもらった腕時計を現場に置いてきたのも、簡単な材料で自分が逮捕されるよう仕向けるため。龍一には確信があった。逮捕されれば婚約者の紀保が、龍一を無実にするために動く確信。そして事実、紀保はその通り動いた。
     つまり、龍一は紀保の愛を利用して、一事不再理を仕組んだというのだった。
     言葉を失う紀保。世の中を動かすのは愛より憎しみだと言った伊織が、愛を利用したなんて考えるのは矛盾していると、苦しく抗弁する。すると伊織は、自分のことはともかく、あんただって真実が知りたいはずだ、そのために俺たちは同志になったと迫る。紀保は遮り、これでは同志じゃなくてカタキ同士だと詰る。けれど、もしアイツが犯人ならと伊織は聞き入れない。信じたくないのはわかる、だが乾龍一には気をつけろ。紀保は帰ってと伊織を追い出そうとする。伊織がとっさに紀保の腕を掴んで叫ぶ。心配なんだ、紀保!
     口を噤む紀保。俺はただ...心配で。伊織が紀保を見つめている。握った手に力が込められている。瞬間、紀保は溺れそうになるが、ふいに手を振り切り、背を向けて言う。もう一緒に暮らしている、なのにこんな話、二度と聞きたくない、帰って。
     黙って背中を見つめる伊織。それでも俺はあんたの同志だ、忘れないでくれ。そう言うと怒ったように出て行く。扉が閉まる。紀保は伊織の言葉に動揺している。
     町へ帰った伊織は蔦子に会って、事件のことを聞かせてもらう。事件直後、雨の中、路地を走り去る人影を見た蔦子である。身長が自分より大きく、黒いコートを着ていたと教えてくれるが、それぐらいしかわからない。ところが、蔦子のもらした話に伊織は驚く。夕顔荘が取り壊されるだけでなく、この一帯が再開発になる噂があるという。そうなれば事件を知る人もいなくなるのだ。伊織は初耳で驚く。
     その頃、雄介が加賀に診療所の買収を持ちかけていた。老後の金を用意するという雄介に、やけに親切だなとこぼす加賀は、再開発を目論んでここの土地を狙っているのだろうという。違うと否定する雄介。加賀は子供の頃から知ってるおまえの嘘なんてすぐわかるという。護も加わり、雉牟田たちと縁を切るいい機会だと言い添える。すると加賀は話はわかった、考えると言って出て行く。ラーメン屋の主人が酔って漏らしたのをきっかけに、個別に進められた立ち退きや買収の点が、線となってつながりつつあった。雄介は護と目を合わせると、覚悟で唇を引き締める。
     夜になり、紀保はマンションでひとり、思いに沈んでいる。龍一が犯人だという伊織。そして自分の腕を掴んだ伊織。まもなく龍一が帰ってくる。龍一はすぐに持ち帰りの仕事にかかる。
     一方、裏口から工場に入ろうとする伊織。セリと雄介の声が聞えてきて立ち止まる。作業場で電気もつけずに話す雄介たち。フキに工場を手放すよう説得してくれと雄介が頼む。セリにも悪いようにはしないと。それは金のことかと聞き返すセリ。それが望みだろと雄介。セリはツンと口を尖らせる。そこへフキがきて明かりを灯す。雄介にご馳走になって送ってもらったとセリ。帰って行く雄介。フキがセリに雄介との関係を問い質す。婚約者のいるお姉ちゃんには関係ないと自宅へ消えるセリ。フキはそれ以上追求できずに見送る。
     夕顔荘へ戻った伊織。雄介の話が気になり、渋い表情でやがて空を見上げる。
     紀保が見上げているのは月ではなく天井。深夜、足を忍ばせて龍一が入ってくる。慌てて目を閉じる紀保。龍一はベッドを見つめ、ついで静かにクローゼットを開けると隠した瓶を取り出す。
     キッチンで錠剤を飲む龍一。追ってきた紀保は変調の見える龍一に声をかける。

    乾先生 加賀先生 紀保先生

    8/14「先生の真実」
     龍一を陥れようとしたのを紀保に見られた杏子は、紀保への愛を告白した。紀保はそんな杏子に精一杯、自分の思いを伝える。事件の真相をなんとしても探り出したいと願う伊織の元に、龍一が酒を持って訪ねてくる。杏子の愛と企みを伊織に話した龍一は、フキのためにも事件のことはもう考えるな、と忠告する。加賀の退院を待っていた紀保と伊織が診療所を訪ねる。「みのりは自殺ではない…」といったことについて尋ねると、加賀はみのりとの関わりを話しはじめる。その週末、約束通り紀保の荷物が龍一の待つ新居へ運び込まれる…。
     

    第55話 「先生の真実」  8月14日(金)放送

     みのりの部屋の南京錠を雄介に頼んで壊そうとするフキ。見つけた伊織が咎めると、邪魔させないと立ちはだかる。なぜと聞く伊織。答えに詰まるフキ。雄介が荷物を早く整理しようと思っただけだという。伊織は無断で勝手な真似はしないでくれと雄介に、そしてフキにも行って背を向ける。
     紀保に愛を伝えた杏子。紀保は杏子の目をまっすぐに見つめていう。杏子に友情以上の想いがあることはわかっていたと。驚く杏子。紀保は話を続ける。でもその想いに気づきながら、あえて気づかないフリをした。それが杏子を傷つけ、追い込んだとしたら責任は自分にもある。けれども愛は策略じゃない。自分の愛のために誰かを陥れるのは杏子らしくない。イタリアで一緒に過ごした頃、自分に無償の愛を教えてくれたのは杏子。あのときの杏子を知っているから、こんなことになった今だってあなたを嫌いになるなんてできない。
     涙ぐむ杏子。紀保は肩を抱いていう。愛のカタチは一つじゃない。私だって杏子を愛している。この先どうするか、一人でよく考えて欲しい。
     紀保が廊下に出ると、龍一が立っている。待っていてくれた龍一。紀保は杏子のしたことを謝る。誤解さえとければいいと龍一。紀保は今夜はこのまま杏子のそばにいたいと伝える。
     やがてソファでうなだれていた杏子、突然裁ちバサミを取るとトルソーのウエディングドレスを切り刻もうとする。だができず、その場に泣き崩れる。外では紀保がずっと立っている。
     その頃、伊織は部屋で「エス」について考えている。エス、諏訪杏子。そう呟く途端、紀保の声が聞えてくる。諏訪杏子のエスだというなら、柴山フキもエス。伊織はハッとする。みのりの部屋を開けようとしていたフキ。フキさんが?と思わず声に出したとき、戸を叩く音がする。龍一だった。
     その頃、フキは雄介に慰められている。勝手に片付けようとした自分を心の狭い女だと思ったに違いないと落ち込むフキ。雄介は、心が狭いのは伊織、ケツの穴が小さいというかなんというか。寂しく微笑むフキ。雄介は昔から落ち込んでると励まそうとしておかしなことをいうけど笑えない。でもそんな雄ちゃん、嫌いじゃないとフキは小さく微笑んでいる。
     飲んで話したかったという龍一。伊織は驚きつつ、酒を出してやり、杏子のことがどうなったかと探りを入れる。龍一は、龍一と紀保の仲を引き離そうとした杏子の紀保への愛と、杏子を襲ったという誤解が解けたことを伝える。まさかみのりを殺して龍一に罪を着せようとしたのかと慌てる伊織。龍一は、杏子が自分を犯人だと思いたがって自分の正体を暴こうとしたんだと説明する。
     失望する伊織。そんな伊織に、龍一がみのりの部屋のことを持ち出す。まだ部屋を残しているそうだねと。なぜ知ってるのかと戸惑う伊織。龍一はフキが心配していたと続けると、不安になるのは当然だと言う。決着ならすでについている。気の毒だがみのりは自殺した、それが現実だ。伊織が言い返そうとすると、いい加減忘れろと遮る。忘れるのが無理ならせめて考えないようにしろと親身に言うと、乾杯を求める。伊織は応じることになる。
     その夜、遅く、紀保はアトリエのソファで眠った杏子に付き添っている。目を覚ます杏子は、休暇が欲しいという。紀保はゆっくり休むようにいい、その代わり、必ず帰ってくるように伝える。
     それからまもなく、紀保は加賀の退院祝いに行く。来合わせる伊織。加賀は二人がみのりのことを聞きに来たのだと察して、すべてを話す。死の直前、口止め料を受け取ることになっていたみのり、だから自殺じゃないみのり。
     護がチンピラと喧嘩して運び込まれ、加賀が治療と同時に通報したことで護が逮捕されたのが6、7年前のこと。その1年後、今度は雉牟田興業の若者が抗争で腹に銃弾を受けて運び込まれてきた。すでに虫の息だった若者。加賀は処置をしつつ、救急車を呼んで大きい病院に搬送するよう求めた。だが雉牟田は警察に連絡が行くと拒んだ。うまく処置しろと。せめて痛みを取るのが医者の務めだ。加賀は若者に注射を打って処置をした。若者は最期は眠るように死んだ。
     その日以来、雉牟田は安楽死の罪を犯した加賀にクスリを要求するようになった。一度渡したら際限がなくなり、加賀は痛み止めだと願って、クスリを渡し続けた。
     要するに俺は、善人ではないが、かといって悪人でもない、ただ弱い人間だったという加賀。そしてみのりが加賀の横流しに気づき、金を要求するようになった。金額は増えていき、最後に三百万を渡して終わりにすることになった。だがその金を受け取る前に、みのりは死んだ。大金を手にするはずだったみのりが自殺するとは思えない。その一方で遺書が見つかっている。自殺か他殺かわからない。それが加賀の話のすべてだった。
     紀保と伊織が同時に、心当たりがないか尋ねる。気が合うんだなと微苦笑する加賀。雉牟田興業はみのりが口止め料を要求していたことも知らず、可能性はないと答える。他にはと聞く伊織。加賀は迷いながら龍一にふれ、一事不再理という言葉を口にする。知らない紀保と伊織。すると加賀は話を切り上げようとする。慌てて止めた伊織がみのりは金の使い道を言っていなかったかと尋ねる。すると加賀はためらい、そして言う。誰にも負けない花嫁衣裳を作ると言っていたと。
     加賀が出て行く。紀保はショックを受けている。みのりは龍一と結婚するつもりだったのだ。
     約束の週末が訪れる。紀保は新居のマンションに引っ越す。笑顔で荷物を片付ける龍一。紀保も笑みを浮かべているが、みのりの話が心に残り、ひとりになると表情が曇る。
     その頃、伊織は六法全書を広げている。柏木が教えてくれた。一事不再理。それは一度無罪の判決を受ければ、同じ事件で二度と有罪にならない刑法の仕組み。アガサ・クリスティの「検察側の証人」の映画を見て詳しい柏木。マレーネ・デートリッヒに杏子がそっくりだとにやけていた。
     伊織は六法全書を閉じると「S」のメモを机に考え出す。せめてこれが誰かわかれば...。
     夜になり、紀保の荷物も片付く。引っ越し祝いにシャンパンを開ける二人。龍一が羽村社長に結婚祝いだと渡されたと封筒を出す。紀保が封筒を開けると、中から出てきたのは婚姻届。すでに羽村と龍一の伯父の署名もされている。龍一、グラスを置くと紀保の髪に手を伸ばし、やがて唇を重ねてソファに紀保と倒れ込む。
     伊織は「S」を考え続けている。考えて、頬杖をつき、メモを横から眺める格好になる。
     龍一が愛してるという。口づけようとして固まる。その脳裏に、不意にすがりつく女が浮かぶ。女は龍一に口づけた。龍一が女の上になって口づけた...。バッと身を離し、うろたえる龍一。逃げるように寝室に去る。クローゼットを開け、隠したスーツのポケットから取り出すのは錠剤の瓶。水もなく錠剤を口に放り込む。
     伊織はメモを見つめていた。見つめ続け、突然、ハッと身を起こす。横から見るその文字は「S」でなく「い」。い?......いぬい......乾龍一。
     紀保が寝室に入ると龍一が振り向く。笑みを浮かべたその口元に、冷たい空気が漂っている。

    女の底力

    8/13「害虫」
     みのりの部屋で、真実のためにもう一度同志になることを誓う紀保と伊織の前に、フキが現れる。二人の仲を怪しむフキに、伊織はみのりが実の妹で、殺された可能性があることを説明する。事実がハッキリするまで誰にも言わないで欲しいと頼む伊織。フキはわかったと約束し、かわりにこれからは隠し事をしないよう伊織に頼む。今でも事件に関る紀保と伊織に不安を感じるフキは、龍一に相談する。二人は事件を口実に、二人で過ごしたあの夏を探しているのだ、と龍一。フキの手を取り、僕はフキさんの味方だと伝える。トラブルに巻き込まれて刺された加賀が退院する。龍一はアトリエの杏子を訪ね、自分を陥れようとしている、と詰め寄る。すると杏子は…。
     

    第54話 「害虫」  8月13日(木)放送

     過去から自由になるために、ふたたびみのりの事件の真相を探る同志となる紀保と伊織。そのとき、扉の外からフキが呼ぶ。いるのはわかってる、伊織さんと、紀保さんも。顔を見合わせる紀保と伊織。覚悟を決めると、伊織が扉を開ける。
     伊織が話し、フキが事情を知る。みのりが妹であること、自殺でない可能性、そのために夕顔荘を取り壊すわけにはいかないこと...。
     フキは雄介に協力を頼もうという。伊織と紀保は、犯人が近辺にいるかも知れないので誰にも言わないで欲しいと頼む。誰にも言わないと約束するフキ。そのかわり自分に隠し事をしないと約束するよう伊織に求める。わかったと答える伊織。安堵を浮かべるフキ。紀保は黙って聞いている。
     やがて紀保は夕顔荘から一人で出てくる。帰って行く紀保。廊下では南京錠を掛ける伊織のそばにフキがいる。
     翌日。雄介がフキの前に足取り軽く顔を出す。みのりの部屋のことを伊織に問い質すようフキに吹き込んだ雄介。伊織は今もみのりのことが忘れられない、死んだ相手には勝てない、だからフキのためにも夕顔荘は取り壊した方がいいという。フキはあの二人はそういう仲じゃないと言いかけて慌てて誤摩化し、自分が説得するから待って欲しいと頼む。アテが外れる雄介。そこに伊織が顔を出し、フキは工場へ。伊織はみのりの部屋のことをフキに話したのかと雄介を責める。すると雄介は伊織が自分を誤摩化していると言い返す。死んだ人間の代わりになる女なら誰でもいいんだろと。気色ばむ伊織。雄介は怯まず、フキを誰かの身代わりにしたら許さないと睨んで去っていく。言葉もなく見送る伊織。
     その日、杏子が出社してくる。気遣う紀保。杏子は、あの男が何か弁解したかと探りを入れる。何も言っていないと教え、龍一のことを謝る紀保。杏子は意外に思うが疑わず、結婚は白紙に戻したほうがいいと微笑んで仕事に入る。そんな杏子を紀保は探るように見ている。
     その頃、龍一は顧問弁護士としてフキと打ち合わせをしている。仕事が済むと、フキが話があるという。フキは、龍一なら分かってくれると、伊織と紀保がみのりの自殺を疑って事件について調べていることを話してしまう。龍一が二人がどう思おうと自殺だという。するとフキは伊織は納得できないらしいと告げ、みのりの部屋を残していることまで話す。犯人がいるという伊織の大切な話も信じず、誰にも言わないという約束を破ってしまうフキ。
     龍一が、僕に話してどうしたいのかと聞く。どうすればいいか分からないから相談しているとフキ。すると龍一はいう。ハッキリ言いましょう、あの二人は事件を口実に二人で過ごしたあの夏を探している、だからフキさんは不安なのだと。
     親身に、そして的確な言葉で話す龍一。フキはすっかり龍一の話に乗ってしまう。龍一の言う通りだ、おかげで自分が何をすべきかわかった。龍一がフキの手を握る。勇気を出して、僕はフキさんの味方ですと。
     そこへ柏木が来て、伊織も来合わせたところで、加賀の退院を知らせる。
     杖をついて診療所に入る加賀。喜ぶ蔦子に、雄介と護と紅夏。蔦子が護を好きなだけ使って下さいという。命を救われた護も何でもやると申し出る。すると雄介が、この際ここを手放して田舎で療養したらと言い出す。なんなら浮舟も手放して、蔦子もお揃いでと。何言ってんだかと蔦子。慌てる護。そこへ伊織と龍一がくる。龍一と初めて会う加賀。
     雄介と護は待合室で密談する。やりすぎだと諌める護。雄介は気にせず、二つまとめて手に入れば一石二鳥だと言い放ち、加賀の世話をしながらうまくやれと指示する。任せとけという護にはどこかためらいがある。
     一方、診察室で話す龍一たち。加賀が刺された際に護の世話を引き受けた龍一は、出頭した男が事故と主張していることを伝え、刑事で争わないなら民事で損害賠償をと助言する。だが加賀は、世の中すべて法律や裁判で割り切れるほど単純じゃないと相手にしない。不満な表情を浮かべる龍一。そのとき、紅夏が診察台のカーテンの陰から顔を出す。すると龍一はじっとカーテンに目を留める。伊織が気づくが答えず、龍一は紀保を説得する電話のために外にいく。
     夕方。杏子が縫製室から戻ると紀保の姿がない。龍一のマンションに引っ越す準備があるので帰るという紀保のメモ。杏子は怒って飛び出そうとする。すると龍一が来て、話があるという。杏子は話すことなんてない、出て行って下さいと断る。すると龍一は、社内に害虫がいれば退治するのも僕の役目だと杏子を挑発する。「害虫?」と言い返して杏子が冷たく笑う。それは人を疑うことを知らない紀保の心に住み着いたあなたでしょう。汚らわしい。
     敵意を隠せない杏子。だからあんな真似をしたのか、狙いはなんだと龍一。杏子は狙いなんてないと言い放つ。龍一の化けの皮を剥いでやりたかった。言葉を操るプロの龍一には言葉では勝てない。だから行動で本性を暴いてやった。思った通り龍一は自分に暴力をふるった。みのりもきっと暴力で犯して妊娠させたに違いない。
     ハッとする龍一。杏子は続ける。そんな男信用できない。紀保の前から早く消えろ。でなければもっと立ち直れないようにしてやる。
     なぜ憎む、君に何をしたと聞き出す龍一に答えて杏子は止まらなくなる。何もしない。だから憎い。これまで紀保のために何かしたのか。何もせずにただ男というだけで紀保の愛を勝ち取るなんて許せない。愛していると言うなら私だって何倍も愛してる!
     言うなり、杏子はシャツの胸を引きちぎる。ここで悲鳴を上げればあなたはもうおしまい、さよなら弁護士さん。
     そのとき、止めてと紀保の声がする。試着室のカーテンの陰に隠れていた紀保が泣きながら立っている。龍一の指示だと気づく杏子。僕は君を真似ただけだと龍一。紀保がお願いだから席を外して、二人で話したいと遮る。龍一が出て行く。杏子は気が抜けたように座り込む。
     その頃、雄介がみのりの部屋の南京錠を壊そうとしていた。指示するのは「何をすべきかわかった」フキ。伊織が見つけて咎める。するとフキは邪魔させないと立ちはだかる。
     床に座り込む杏子の肩に、紀保はショールをかける。涙ぐむ杏子。哀しく見つめる紀保。やがて杏子が隣に座ってくれた紀保に話し出す。
     イタリアで初めて会ったときから紀保のことが好きだった。帰国してアトリエを開くと同時に龍一と婚約してしまった紀保。二人が目を合わせて微笑むたびに、どんな気持ちになったか。それでも紀保が幸せになるならと気持ちを押し殺して祝福しようとした。それなのに龍一が逮捕され、あの瞬間、抑えていたものが音を立てて弾けた。あんな男に紀保を渡したくない。そう誓って、紀保の手紙を差し替え、龍一に偽りの恋を打ち明け、紀保を引き離そうとした。それなのに紀保はあの男のために犯人まで探そうとした。でも誤解しないで欲しい。自分は別の意味で犯人を憎んでいた。みのりが生きていれば、今ごろ自分でなく彼女があの男から紀保を引き離していたはずだから。なのに彼女は死んでしまった。きっと龍一が殺したに決まっている。悔しがる杏子の腕を紀保が抑える。
     杏子は夢のように話す。あの男がいない一年間、幸せだった。デザインが出来ずに苦しむ紀保と心を一つにして、二人で美しいものを作る喜び。ハムラキホのいちばんの理解者であり、いちばんのファンは私です。愛してるんです、心から。わかってください、紀保さん...。紀保は杏子の目をまっすぐに受け止めている。

    伊織が作り、龍一が笑顔の朝ごはん

    8/12「同志ふたたび」
     龍一に襲われた杏子が、紀保に助けを求める。釈明する龍一を拒んで、紀保は泣きじゃくる杏子を連れて帰る。その夜、龍一はみのりに襲われたときの夢を見て苦しむ。夜が明けると、伊織が朝食を用意してくれていた。うなされる龍一を心配して、夕べからずっといたという。一方、紀保は杏子を別荘で静養させる。杏子は、紀保が龍一に騙されているという。龍一がみのりに襲われたというのも、龍一が話しているだけで事実は分からない…。その日、伊織は改めてみのりの部屋を確かめ、気になる紙切れを見つける。紀保を呼び出して紙切れを見せると、真実のために、もう一度同志になろうと伝える。過去から自由になり、自分の人生を生きるために…。
     

    第53話 「同志ふたたび」  8月12日(水)放送

     龍一に襲われたような状況を作り上げた杏子。杏子の連絡で駆けつけた紀保がそれを目撃する。泣きじゃくる杏子を抱いてマンションを出ようとする紀保。弁明しようと追う龍一。紀保は龍一を拒んで出て行く。「今は話したくないの」と。
     苛立ち、怒り収まらない龍一。キッチンで錠剤の瓶をまた取り出すと、水もなしで口に放り込む。するとチャイム。紀保ではなく、伊織だった。杏子の電話で飛び出した紀保を案じて追ってきた伊織。
     早朝の海辺の別荘。紀保はベッドを出てリビングで沈む杏子を見つける。温かいものを持ってくるといたわる紀保。杏子はそんな紀保に、すみませんと言う。紀保はただ優しく笑顔を見せる。出て行く紀保を見ている杏子。
     廊下の紀保。笑顔が消え、厳しい顔で部屋を見ると覚悟が浮かぶ。
     龍一は悪夢を見ている。ソファで泣く女。指輪がグラスに当たりカタカタと音がした。女が突然すがりつき、手錠をかけられた自分。悲鳴とともに目覚める。額にぐっしょりと汗。
     龍一が起きると、伊織がみそ汁を作っている。具合が悪くなった龍一を心配して泊まっていったのだった。龍一は「夕べは迂闊だった」と笑ってみせ、それ以上弁解せず、へこたれていない姿を装ってシャワーを浴びにいく。
     伊織の作ったみそ汁に納豆はおいしい。ここで初めての朝食の相手が伊織だなんてと笑う龍一、楽しく食べ終えると仕事があると席を立つ。伊織が大丈夫なのかと呼び止める。差し出したのはキッチンに落ちていた錠剤の瓶。それは外国製の精神安定剤。龍一は、向こうじゃ誰でも使ってるとさりげなくいい、心配かけたくないので紀保には黙っていて欲しいと頼む。龍一を見つめる伊織、あんたが解決すべき問題だと応える。
     寝室で出かける支度をする龍一。笑顔はなく、安定剤の瓶を見ると舌打ちし、クローゼットの服のポケットに隠す。
     紀保のいれたカフェオレ。もう飲み終える杏子。やがて、どうして夕べのことを何も聞かないのかと尋ねる。紀保はいう。話してくれるまで待とうと思ってるだけだと。すると杏子は、紀保は龍一に騙されているんだと話し出す。
     みのりの事件だって本当は何があったか分からない。ホテルにみのりが飛び込んできたという話も龍一が言っているだけのこと。実際は龍一が連れ込んで乱暴したのかも知れない。望まない妊娠をして自殺したのかも知れないし、あるいは龍一が直接、手を下したのかも。
     紀保は、そんな人じゃないと思わず立ち上がる。すると杏子はいう。紀保も見たはずだ、龍一は嫌がる自分に無理やり酒を飲ませ、襲おうとしたと。紀保は確かに見た。玄関で悲鳴が聞え、寝室に走ると、龍一の手が杏子の頬を打っていた。ベッドには下着姿の杏子...。
     あれこそがあの男の正体。人は事実だから信じるんじゃない。事実であって欲しい気持ちがあればどんな嘘でも信じてしまう。逆に嘘であって欲しいことは、事実を目にしても信じたくない。紀保にとっての龍一は信じたいかどうかしかない、だから紀保には自分の話を信じてもらえない。
     杏子が涙ぐんでいる。困惑して聞いていた紀保が口を開く。あなたがそこまで言うなら、自分の手で真実を見つける。一年前の夏の日、本当は何があったのか。どんな真実が姿を現そうと、私は決して逃げたりしないと約束する。誓うわ。
     ハッとする杏子。それはどこか杏子に語りかけているようにも聞える。紀保は覚悟を決めたように窓の外を見ている。
     伊織が町へ帰ると、雄介とフキが待っている。朝帰りかと冷ややかに責める雄介。伊織は龍一と話し込んでいたと説明する。そんな伊織に、雄介は新しいアパートの契約を示し、夕顔荘を出ないのは結婚を先延ばしにする予定でもあるのかと迫る。フキがそんな予定ないと慌てる。伊織は取り壊しを待ってもらうために大家に会いたいと雄介に頼む。工場から呼ばれる伊織。不安げに見送るフキに、雄介が言う。取り壊しを嫌がるのはやっぱり忘れられないのかなあ。フキちゃんはあの部屋に入ったことがある? ピンと来ないフキ。雄介はないみたいだねとフッと笑う。
     午後の休憩時間。伊織はみのりの部屋に入る。遺品をひとつずつ見ていく。かつてみのりに贈った自分の銀細工の指輪が出てくる。三日月神社のお守り袋が目に留まる。指輪をお守りに入れてひとまとめにしようとする。結び目を開くと違和感がある。つまみ出すとそれは小さな紙切れで、携帯電話の番号が書かれていた。裏返すと「S」の文字。エス...エス...。やがて小さく声を上げる。諏訪杏子? そのとき、フキが伊織を呼ぶ声。
     伊織の部屋の前にいたフキ。戻った伊織に、つきあって欲しいとねだる。
     紀保が働いていると杏子が担当する仮縫いの客がくる。休んでいる杏子の代わりに紀保が受けることにすると、来たのはフキと伊織だった。紀保は戸惑いを捨て、すぐに仮縫いの指示をする。
     やがてウエディングドレスを纏ったフキ。その姿を見ていた紀保は険しい顔。突然、ハサミを取ると、フキに近づく。怯えるフキ。紀保は背面に回ると、思い切り良く背中の大きなリボンを切り落とす。ようやく笑みを浮かべる紀保。やっぱりフキさんにはこのほうが似合うとフキに尋ねる。慌てて鏡を見たフキ、驚いて納得する。セリや伊織も感嘆するなか、紀保はベールを指示し、セリには髪飾りを出させる。それはセリが自分で作った髪飾り。紀保たちがテキパキと働き、フキは美しく変身していく。
     デスクの方に外す伊織。そこへ紀保がピンを取りにくる。さすがだなと声をかける伊織。紀保はあなたの花嫁だもの、最高に美しくすると告げる。うんと答えた伊織、紀保が仕事に戻るすれ違いざま、紀保の手にメモを滑り込ませる。フキのもとに戻る伊織。紀保がそっとメモを見ると、「話がある、今夜、あの部屋で」と書かれている。
     夕方。セリが髪飾りを直している。出来映えに感心しているセリ。出かける支度をしている紀保は、手先の器用さはお父さん譲りかもと。ネジ作るしか能のなかった頑固親父と一緒にしないでとムキになるセリ。そこへ龍一が来る。喜んで迎えるセリ。龍一は紀保と二人で話したいという。だが紀保は、今は何も聞きたくない、ごめんなさいと出て行く。龍一がみっともない姿をさらしても、ちっとも気にしないセリ。
     その頃、海辺の別荘の杏子。手作りの人形を胸に抱き締めると「紀保さん」と呟く。
     紀保は夕顔荘の玄関に立つと、覚悟を決める。伊織と会うと、自分も話があると告げる。
     「S」のメモ。電話番号はもう使われていない。エス...諏訪杏子、みのりを殺したのは彼女かも知れない。伊織の話を聞き終えた紀保。そうだとしても証拠がない。諏訪杏子のエスだと言うなら柴山フキもエス。そう言うと紀保は自分の話をする。
     だから自分は決めた。今度こそ真実を突き止める。誰のためでもなく、自分のために。止めても無駄。そのことを伝えておきたかった。
     すると伊織がいう。紀保は前に言った、真実を突き止めない限り、俺たちは過去から自由になれないと。だったらやろう。俺たち、もう一度同志になるんだ。あの夏に別れを告げて、おたがい自由な心で、自分の人生を生きるために。
     賛成よと告げ、紀保が手を差し出す。伊織がその手を握り返す。ふたたび、同志になる二人。そのとき、扉の外からフキの声。いるのはわかってる、伊織さんと、紀保さんも。

    杏子の誘惑

    8/11「罠」
     紀保のもとに結婚祝いの花や品々が届けられる。早く龍一と一緒に暮らすよう紀保に勧める羽村。龍一も、この週末、紀保の荷物を新居に運ぶという。そんななか、紀保は突然伊織に呼び出される。伊織は、杏子に思いを寄せる柏木のために、杏子がみのりの事件に関係しているのかどうか見極めたいという。二人で事件を探るうちに、紀保はふっと一年前の夏に戻ったような気がした。そのとき、杏子から紀保に電話がかかる。龍一の様子がおかしい、というので、急ぎマンションへ駆けつける紀保。伊織も追いかけようとするが、フキが行かせまいとする。紀保が部屋に着くと、信じられない光景が…。
     

    第52話 「罠」  8月11日(火)放送

     アリバイがあるとも言えるし、ないとも言える杏子。アトリエで紀保を見つけると、龍一でいいのか迷っているんだろうと言ってくる。紀保は「あなたこそ本当は」と龍一のことを好きなのではないかと聞こうとするが聞き切れない。
     紀保は新居のマンションへ羽村に呼び出される。羽村の会社に山のように贈られてくる紀保の結婚祝いの花を届けてくれた父。式はまだだが早く新居で暮らすよう進める。みのりの事件をこのままにしていいのかひっかかって踏み切れずにいる紀保は、一人暮らしになる父を気遣うが引っ越さない理由にならない。そんな紀保に羽村が自分と龍一の伯父からの結婚祝いだと封書を出すが、やはり龍一に渡すと引っ込める。龍一は羽村家の新時代を担う人物だと諭す羽村。紀保は微笑んで頷く。
     浮舟では、和美が夕顔荘の取り壊しを知って雄介を怒鳴りつける。聞いていないと怒る和美。大家に直々に頼まれたという雄介は、俺は鵜飼いの鵜じゃないと席を立つ。店を出た雄介に、柏木が頼みがあると声をかける。
     伊織は雄介の話を聞いて驚く。柏木はファミリータイプのマンションを探しているというのだった。夕顔荘に住む職人たちのアパートも手配している雄介の声も耳に入らず、伊織は杏子のことを思う。柏木が好きになった杏子、そしてその杏子は、みのりにマカロンを食べさせた条件に当てはまっている...。
     ウエディングドレスのデザインをスタッフたちと打ち合わせる紀保。やたら大きな背面のリボンは客の希望だが紀保にはひっかかる。そこへセリがコサージュを持って入ってくる。それはセリが姉のために自分の手でこしらえたもの。白く清楚で意外にもよくできている。セリといがみあっていた杏子が手を伸ばし、みなが緊張するが、杏子も初めてにしてはよくできてると誉める。初めて誉められ、照れながら喜ぶセリ。
     そこへ龍一がくる。仕事の用件を済ませると、龍一は羽村と相談して週末に紀保の引っ越しをすることにしたと紀保に告げる。抱えたままのひっかかりを隠して頷く紀保。その片隅で、引っ越しの話を聞いた杏子が表情を硬くしている。紀保はそんな杏子に気づいている。やはり杏子は龍一のことを意識している...。
     そこへ紀保宛に電話がかかってくる。相手は蔦子だった。
     時間を作って欲しいと頼む蔦子。電話を切ると、これでいいのかしらと伊織にいう。礼を言う伊織。吐息する蔦子。
     加賀診療所に蔦子が紀保を案内する。みのりの事件で話したいことがあると頼まれたからという蔦子。紀保が入ると、伊織が立っている。二人とも今は大事な人がいるんだから、そこを忘れないでと言いおいていく蔦子。紀保も伊織も頭を下げる。
     いまさら話なんてないと思ってたけど、と冷たい紀保。紀保は柏木の話を伝え、杏子に疑惑があるなら払拭しておきたいと思ったのだとことわり、自分の推理を話す。
     龍一を好きな杏子。紀保と龍一の仲を裂きたがっていた。みのりと知り合い、龍一を誘惑させた。だが計算外のことが起こる。みのりの妊娠。そこで自殺に見せかけて殺した。遺書は頭のいい杏子がもっともらしい理由を付けて書かせた。ところが柏木が持ち去ってしまったため、龍一が殺人容疑で逮捕されてしまった。焦った杏子は龍一の無実を証明しようと今度は紀保を利用した。
     驚く紀保。伊織は続ける。
     杏子は紀保の性格をよく知っている。どうすれば紀保が動くか分かっているのかもしれない。それに杏子には土地勘がある。懐かしさに散歩していてみのりと知り合っても不思議じゃない。
     嘘だ、信じたくない。紀保は力が抜けたように座り込む。ただの憶測だ、でも彼女じゃないという確証もないと伊織がいう。胸が締め付けられるような緊張。紀保がぽつりという。一年前...一年前の...あの夏と同じね...。
     あの時も、何の確証もないまま事件の真相を探ろうと二人で躍起になっていた。伊織の胸にも感情が沸き上がる。
     紀保が遠く述懐する。あれから一年しか経ってないのに、もうはるか昔に感じるわ。黙っていた伊織がいう。時間が経っただけじゃない、それ以上に、俺たちの距離が遠くなったんだ。
     ハッとする紀保。黙り込む伊織。紀保も黙り込む沈黙。そのとき、紀保の携帯が不意になる。
     相手は杏子。龍一から呼び出された。いつもと違う感じがするので気になるという。
     ただごとでないと感じた紀保は自分も30分で行くと告げ、龍一のマンションに向かって飛び出す。「紀保!」と追いかける伊織。だが、診療所の表に出たところで、フキにつかまえられる。雄介から聞いたフキ。行かせないと伊織を阻む。
     パソコンに向かって仕事する龍一。疲れたようにこめかみを押さえ、錠剤の入った瓶を取り出すと水で飲む。そこにドアチャイム。こんばんわと微笑む杏子。
     警戒する龍一。杏子は、紀保から二人に大事な話があると言われたという。そっと時計を見る杏子。龍一はブランデーを杏子の分だけ出す。仕事があるので飲まないという龍一。すると杏子がいう。真面目なのね、それなのにどうして女の人を妊娠させるようなことをしたのかしら。驚く龍一。杏子は続ける。亡くなったときは確か、妊娠二ヶ月でしたよね。生まれてくれば、男の子だったのかしら、女の子だったのかしら、龍一さんの赤ちゃん。
     言いながら、杏子はグラスを持ったままジャケットを脱ぎ、寝室に入る。追ってくる龍一に上着を投げ、ストッキングのガーターを外す。裸足の女が飛び込んできたなんて嘘でしょ。止せと腕を掴む龍一。嫌いじゃないんでしょ、あの夜と同じにすればいいと杏子は抱きつく。力づくで追い出そうとする龍一。そのとたん、杏子が悲鳴を上げてブランデーを龍一にかけ、ベッドの上に逃げ込む。押さえつける龍一。しがみつく杏子の腕を振り払ったとき、「龍一さん!」と紀保の声がする。とたん、杏子は紀保のもとに逃げ、泣きつく。愕然とする龍一。紀保は泣きじゃくる杏子を抱きかかえ、龍一を睨んで立つ。「言い訳なら聞きたくない」。言葉を失う龍一。紀保は杏子とともに出て行く。

    杏子に動機?

    8/10「過去からの自由」
     みのりに毒物の入ったマカロンを食べさせた人物がいるとしたら──龍一だけでなく杏子も条件に当てはまっていた。愕然とする紀保。龍一に相談しようとするができず、伊織に連絡を取る。一方、伊織は雄介から夕顔荘を取り壊すので引っ越して欲しいと求められる。事件現場の夕顔荘がなくなることに戸惑う伊織。フキに相談するが、フキは興味を示さない。紀保は伊織と会い、杏子の犯行の可能性を相談する。杏子には動機もあった。紀保は、みのりの部屋を調べたいと頼む。だが、紀保を諦めるよう龍一に釘を刺されている伊織は、あの夏はもう終わったんだという。杏子が紀保の携帯電話を調べ、紀保の秘密を探り当てる。一方、紀保はひとりで杏子のアリバイを調べる。

    第51話 「過去からの自由」  8月10日(月)放送

     みのりは誰かに殺されたのか。それが出来たのは紀保が「デ・ドール」のマカロンを好きだと知っている人間。条件だけなら龍一が当てはまっていた。
     伊織と別れてアトリエに戻った紀保。出迎えた龍一の笑顔を直視できない。だがその直後、杏子に「デ・ドール」のマカロンを勧められ、心臓が凍り付く。手を洗うと行って逃げるように廊下に出る紀保。記憶の糸を辿ると思い出す。龍一が拘置所に入ってまもなく、夕顔荘とアトリエの二重生活を送る紀保に杏子が、紀保が好きだからと「デ・ドール」のマカロンを差し入れてくれたことがあった。杏子は、一年前から、紀保が「デ・ドール」のマカロンを好きなことを知っていた、つまり杏子は条件に当てはまっているのだ。だが動機は? 信じられない思いで、動機がないと言い聞かせようとしたとき、龍一が顔を出す。ハッとする紀保。龍一に相談しようとするが、言い出せない。そんな紀保に、龍一が早く新居に引っ越すよう催促する。
     その龍一の話を、杏子が扉の向こうで冷めた目で聞いていた。
     一方、伊織は雄介の話に戸惑っていた。大家の希望で夕顔荘を立て替えることになったので、引っ越して欲しいと雄介。つまり、夕顔荘が取り壊されるのだった。翌日、伊織はフキに話してみる。だがフキは夕顔荘がなくなるその意味に気づかず、お盆休みは引っ越しにちょうどいいと屈託がない。相談したくても相談できない伊織。そこに紀保から電話が入る。
     マカロンのことで相談したいことがあるという紀保。だが仕事中の伊織は職人に呼ばれて、後で連絡すると告げる。
     一方、紀保も仕事中で、客が来てしまい、お願いしますと電話を切る。杏子が案内してきた客は車椅子の弥生。紀保は打ち掛けからリフォームを終えたドレスを披露する。もう仕事に集中していて、弥生の仮縫いに入る。
     その隙を窺い、杏子が、紀保がさっき通話していた携帯電話をチェックする。リダイヤルの記録に「compagno」の文字。コンパーニョ......同志?と呟くと、番号をメモする。
     仮縫いを終えて衣裳を整えた弥生。母の形見が美しいドレスになり、弥生は涙を浮かべて礼をいう。紀保は自分こそと感謝する。実はデザイナーとしてやっていけるか迷っていた、だがこの仕事のおかげで続けていく勇気を持てたと。礼をいう紀保と感激している弥生。優しく温かい時間のなかで、杏子は冷ややかに視線を外す。
     午後。キャンディをなめている柏木が直立する。工場にフキを訪ねてきた杏子。セリがいて、杏子がわざわざ打ち合わせに来たことに、柏木目当てかと軽口を叩くが、杏子は柏木のことをまるで覚えていない。柏木が名前を覚えてもらおうと頑張るが、相手にせず、フキが来ると、新郎の意見を聞きたいと伊織を呼ぶ。伊織が来ると杏子は打ち合わせを始めるが、その途端、電話が入ったと戸口に外す。電話で話すフリをしながら、電話をかける杏子。すると伊織の携帯電話が鳴る。非通知で切れてしまう電話。それを見ていた杏子。コンパーニョは伊織だった。電話を終えたふうに何事もなく席に戻る杏子。そのまわりを、柏木が緊張で手を震わせながらお茶を出して回っている。
     やがて伊織が工作所から出てくる。来合わせた雄介が立ち退きの話をしようとするが、伊織は用があると言って出かけていく。浮舟から出てきた護が、女だとニヤリと囁く。
     都心のカフェで伊織を待っていたのは紀保。二人は声をひそめ、額を寄せて話し合う。杏子を疑いたくない、でも杏子はマカロンの条件を満たしていて、みのりと龍一の関係に気づくこともできたと紀保。相談できる相手は伊織しかいないという。
     伊織は龍一に相談すればいいといいかけ、紀保の想像する杏子の動機に気づく。杏子は龍一のことが好きで、それでみのりに手をかけた?
     龍一宛ての手紙を書き換え、紀保と龍一の仲を裂こうとした杏子。だが証拠となるかも知れないその手紙は燃やしてしまった。
     もう一度みのりの部屋を調べさせて欲しいと頼む紀保。杏子が事件に関係していないか調べたい、これはもう伊織だけでなく、自分にとっても重大な問題だと訴える。
     すると伊織が、夕顔荘の取り壊しが決まったという。事件現場がなくなるというその意味に気づく紀保。だったら急がなくてはという。だが伊織は返事をしない。その脳裏には龍一の言葉が甦る。事件の真相を探ることで紀保と過ごしたあの夏を探しているんじゃないか、過ぎた季節はもう戻らない、紀保も同様だ。
     黙り込んでいた伊織はいう。止そう、あの夏はもう終わったんだ、俺たちはもうすでに次の季節に歩き始めている、みのりの部屋がなくなるのはいい機会なのかもしれない、と。
     驚き、本気なのかと確かめる紀保。ようやく自分を取り戻したんだ、過去に戻ろうとは思わないと伊織はいう。失望する紀保。私は真実を突き止めない限り過去から自由になれそうにない、でもそれは私だけのようねと席を立ち伝票を掴む。咄嗟に紀保の手を掴む伊織。ごちそうさまと手を引き抜く紀保。いつも紀保の手を掴んでいた伊織の手は伝票しか掴めない。
     加賀診療所で護の報告を聞く雄介。伊織が会ったのは紀保だと聞き、呆れる。これでフキちゃんがおまえに転がり込めばいいという護に不機嫌に相槌を打つ。夕顔荘の立て替えは偽わりで、狙っているのは一体の再開発。診療所も手に入れると雄介は目を光らせる。
     そうとは知らない伊織は、その夜、夕顔荘の台所で柏木に夕顔荘の明け渡しについて尋ねてみる。長く住んでいる柏木に愛着があるなら取り壊すのを待ってもらおうかと言い出す伊織。建前を探しているが、柏木はそんな伊織の思いをよそに、プロポーズするのに必要だからマンションを買うとにやける。呆気にとられる伊織が相手を聞くと逃げてしまう柏木。するとフキが来て、柏木の相手は杏子だという。驚く伊織に、フキは楽しそうに話す。杏子は以前、この近くに住んでいた、案外、縁があるのかもしれないと。伊織はひっかかりを覚えて真顔になる。
     翌日、アトリエで宣伝材料の写真を見る紀保。スタッフが気づいて懐かしいという。それは一年前、パンフレット用に撮影したもの。その日の夜、みのりが死んだのだ。紀保は閃き、撮影の日の夜の杏子の行動をさりげなく聞いてみる。あの日、スタッフは紀保とともに撮影の打ち上げに飲みに行った。紀保は結婚式の準備で先に帰った。スタッフは杏子も初めはその場にいたという。だが、夜半まで飲んだ最後までいたかどうかは覚えていない。アリバイがあるとも言えるし、ないとも言える。一人考え続ける紀保。気配に顔を上げると、杏子がにこやかに立っていた。

    憧れの 水生昆虫

    2009/08/07 午後 11:17 放送予定
    引退しても健在なテクニックに局長が感動の涙!!
    【内容】
    依頼は、松村邦洋探偵が調査した『メロンはまだか?』、たむらけんじ探偵の『タガメとオケラを見たい!』、長原成樹探偵の『おじさんは元サッカー日本代表!?』の3つ。
    1.『メロンはまだか?』松村 邦洋探偵
    京都市の男性(33)から。年に一度、夫婦で北海道のニセコにスキー旅行に行く。昨年1月に行ったとき、居酒屋で呼んでもらったタクシーの運転手さんは、非常に軽快な北海道弁をしゃべる方で、冬場はタクシー運転手、夏場は農業をしていると話してくれた。私たちはイタリアンレストランを経営していて、“食”に対して非常に興味があると言うと、夏に愛情たっぷりの自家製メロンをぜひ送りたいと言い出した。渡されたメモ用紙に名前と住所を書いたが、秋になってもメロンは届かなかった。今年もメロンの季節になったが、他のメロンは食べる気にならない。このままでは一生メロンを食べられないので、ニセコのタクシー運転手さんを探して欲しいというもの。
    2.『タガメとオケラを見たい!』たむらけんじ探偵
    兵庫県の男の子(8)からの「水生昆虫が好きで、特にタガメが好き。図鑑でしか見たことがないので、捕まえたい」というものと、兵庫県の男の子(9)からの「オケラを見たことがないので、どうか一緒に見つけてください」という2つに応える。
    3.『おじさんは元サッカー日本代表!?』長原 成樹探偵
    熊本県の男性(36)から。小学3年と1年の息子2人は、サッカーをやっている。サッカーの元日本代表・ガンバ大阪のキャプテン・磯貝洋光君が親戚だが、子どもたちには“ただの冴えない叔父さん”のイメージしかない。すごい選手だったという認識がない。一緒にプレーしたことがなく、現役を引退した後に、親戚の叔父さんとして数回会っただけなので、無理もないと思うが、このままではあまりにも悲しい。なんとか、息子たちに洋光君がすごい選手だったということを分かってもらえるよう、協力して欲しい、というもの。

    巨大な マカロン

    8/7「甘い毒」
     引っ越しパーティーのテーブルに並べられた色とりどりのマカロンを見て、伊織はみのりの遺体の足元に転がっていたマカロンを思い出す。みのりが最期に口にしたのは、毒物の付着したマカロンだった、と紀保に教える伊織。事件の日、龍一が同じ店のマカロンを自分に買ってきてくれたので、紀保は不安になる。龍一が柴山工作所の顧問弁護士を引き受ける。みのりの事件を探る伊織に、伊織と紀保の夏はもう終わったのだ、と龍一が警告する。 紀保は伊織に、あることを確認し、愕然とする。紀保の脳裏に、みのりにマカロンを勧める人物の姿が…。
     

    第50話 「甘い毒」 8月7日(金)放送

     紀保と龍一の婚約披露パーティーの賑わいのなか、紀保と伊織は玄関でひそひそと話す。検察の起訴状で洋風焼き菓子と記されていた毒が付着した菓子がマカロンだったことを初めて知った紀保。みのりが自殺したなら、自分で買ったのか、誰かにもらったのか。まさか店の名前は「デ・ドール」...。伊織に聞くが、伊織の記憶は定かでない。いきなり玄関のドアが開き、羽村が入ってくる。二人は話を続けられなくなる。
     パーティーが終わる。龍一がにこやかに紀保の肩を抱き、伊織とフキを送り出す。玄関を出てフキと帰る伊織。その頭のなかは事件のことで占められている。
     一方、玄関では龍一の顔から笑顔が消える。呼ぶなら相談して欲しかったと紀保にいう龍一。杏子が自分が呼んだと割って入る。龍一は不機嫌に中へ入っていく。
     リビングでそんな龍一に気づく羽村。紀保と伊織の交流について尋ねる。龍一は愉快ではないがオオカミも姿が見えているうちは怖くない、自分なりのやり方でつき合っていくと答える。薮に追い詰めるより目の届くところに置いておくわけだと微笑む羽村。
     一方、玄関では紀保が杏子に捕まっている。伊織と龍一、どちらが大事か感じるものはあったかと尋ねる杏子。紀保はもう婚約したのだとおかしな杏子を非難する。すると杏子は、だったらどちらも選ばない選択もある、結婚は一つの生き方だけれど人生のすべてじゃないという。紀保がびっくりしていると、杏子は笑みを浮かべ室内へ入ってしまう。
     数日後、フキのもとに龍一が訪ねてくる。海外取引も増えた柴山工作所の顧問弁護士に、自分はどうかと申し出る。伊織を監視する魂胆の龍一。フキは知り合う術もなかった優秀な弁護士の申し出を喜ぶ。
     その頃、紀保はアトリエで車椅子の弥生の仕事に取り組んでいる。すでにデザイン画は描き上がっている。打ち合わせを終えたスタッフが、先生のデザイン画、久しぶりだと喜ぶ。紀保を待っていてくれ、力強く働く紀保と紀保のデザインに張り切ってくれるスタッフ。弥生のために幸せを形にしたいと意欲を抱いた紀保は手を動かすなかで苦しみを乗り越え、気づけば前に進み始めていた。そのとき、スタッフが尋ねる。パーティーで出たマカロンを紹介して欲しいと。紀保は何気なく教える。住宅街の中にある小さなお店で、わかりづらいけど、「デ・ドール」と言って...。
     縫製室に向かうスタッフは笑っている。デ・ドールとは金の指ぬき、キホ先生らしいと。
     紀保は霧に包まれていた。「デ・ドール」は当時、オープンして間もない店だった。それをなぜ、みのりは知っていたのだろう。一年前のあの日を思い出す。結婚を控えたあの日、龍一が「デ・ドール」のマカロンを差し入れてくれた。自分が好きなのを知ってることに驚くと龍一は言った。「知ってるさ、君のことならなんだって」と。その夜、みのりは遺体となり、その傍らにマカロンが落ちていた...。これはただの偶然なのか...。
     戻った杏子と入れ違いに、紀保は飛び出していく。残された杏子は憮然とし、紀保のデスクに歩み寄ると写真立て。龍一が紀保と笑顔で写るその写真を、杏子はつまらなそうに裏返した。
     その頃、龍一は伊織と会っていた。工作所の顧問弁護士を引き受けたことに戸惑う伊織。事件のことを思い出すんじゃないのかと。すると龍一はビジネスに個人的な感情は挟まないとごまかし、伊織こそみのりのことで僕や紀保を憎んでいないかと聞く。恨みや憎しみは捨てた、今は目の前の自分の道を歩いていくだけ、だからフキと結婚することにしたと伊織。すると龍一はさらに確かめる。では恨みや憎しみはもちろん、紀保への愛も今はない、そう思っていいんだなと。
     一瞬、黙った伊織はふっと表情をかえて言う。今はないんじゃなくて、そんなものは初めからなかった。何しろ彼女は出会ったときから仇の娘で、言うなれば俺たちはカタキ同士でしたから。
     龍一は疑いの目で伊織を見る。けれども伊織に電話が入り、心を知ることはできない。
     だがその電話で、伊織は待ち合わせをし、フキに行き先を告げずに出て行く。盗み聞いた龍一。
     伊織が加賀診療所に入っていくと、雉牟田興行が待っていた。伊織を海外の密造工場に誘う雉牟田。伊織はその前にみのりとの関係を教えてくれと聞く。だが雉牟田にはまるで知った様子がない。用が済んだ伊織は、自分に何かあれば一年前に渡された設計図の写しと雉牟田の名前が警察に届くことになっていると告げる。雉牟田たちが諦めて出て行くと、龍一が顔を出す。伊織をつけてきた龍一。
     アトリエを飛び出した紀保は、みのりの事件の刑事と会っていた。墓前に供えたいという紀保に、刑事はマカロンの店を教えてくれる。それは「デ・ドール」だった。
     伊織から、加賀の話でみのりの自殺に疑いが生まれ、そのために雉牟田の呼び出しに応じて会っていたのだと聞かされ、龍一が驚く。けれども雉牟田の様子ではもう雉牟田たちがクスリの横流しに関係して殺した可能性はなくなっていた。
     伊織は龍一に、どっちにしてもあんたたちには関係ない、彼女にも俺が事件の真相を探っていたことは言わずにいて欲しいと頼む。
     すると龍一がいう。君も忘れた方がいいんじゃないか。君にはフキさんとお母さんと工場を守る責任がある。それとも、君は事件の真相を探ることで、紀保と過ごしたあの夏を探しているんじゃないだろうね。過ぎた季節はもう戻っては来ない。紀保も同様だ。君たちの夏は、もう終わったんだ。
     愕然とする伊織。見届けた龍一が去る。伊織は立ち尽くしている。
     やがて部屋に帰った伊織。赤いスクラップブックを見つめる。紀保の声が耳に甦る。あなたは嘘をついている。過去を忘れるなんてあなたの心はそんなに器用じゃない。そして、この夏を忘れないと言った紀保。伊織は覚悟を決め、ついにスクラップブックを庭で燃やそうとする。その間際、戸を叩く音がする。伊織さんと呼ぶ切迫した声は紀保だった。
     スクラップブックを確かめたいという紀保。裸足も気にせず庭に駆け降り、ページを繰り始める。「デ・ドール」は紀保がたまたま見つけた店、オープンして間もなく一般にも知られていない。ページを繰る紀保。だがスクラップブックに「デ・ドール」の名前はなかった。みのりは店も、それがどこにあるかも知らなかったのだ。
     紀保になりたかったみのりは、誰かに渡され、紀保が好きなものだと聞いて喜んで口に運んだ。毒が入っていることも知らずに。あるいは少なくともみのりにマカロンを勧めた人間がいる。それは紀保が「デ・ドール」のマカロンを好きだと知っている人間。やがて伊織が気づく。乾龍一? 紀保は返事もできない。
     廊下から雄介が伊織を呼ぶ。身を隠す紀保。伊織は慌てて雄介を台所に連れて行く。紀保はその隙に部屋を抜け出し、夕顔荘から姿を消す。
     台所で雄介の話を聞いた伊織は絶句する。夕顔荘を明け渡せというのだった。
     紀保がアトリエに帰ると、龍一が笑顔で迎える。視線を避ける紀保。すると龍一と打ち合わせていた杏子が声をかける。甘いものでもお持ちしましょうか。微笑みを浮かべる杏子が、デスクの箱を取って言う。紀保さんのお好きな「デ・ドール」のマカロンです...。