7/31「秘密の始まり」
ある日、加賀から紀保に電話がかかる。一度ゆっくり話したいというので、紀保は診療所へ向かう。護が男たちに追われて診療所へ逃げ込む。男たちに捕まり、袋叩きにあう護。護を庇おうとした加賀が、男に刺される。そこへ、伊織が飛び込んでくる。意識のあるうちに二人に言っておきたいことがある、と伊織と紀保を呼び寄せる加賀。抱え込んでいたみのりの秘密を打ち明け、そして言う。みのりは自殺じゃないと…。話を聞いた紀保と伊織は絶句する。加賀の告白が事実ならば、みのりの事件は振り出しに戻る…。その頃、龍一は下町へ出かけたまま帰らない紀保に苛立ちを募らせていた。紀保はなぜいつまでもあの町にこだわるのかと…。
第45話 「秘密の始まり」 7月31日(金)放送
後ろから伊織の胴に手を回し、みずえの看護に行ってきたというフキ。伊織はためらいながらも、ありがとうと手を重ねた。するとフキは紀保にウエディングドレスを頼んで来たと続ける。動揺する伊織。それを見越して伊織の手の上にもう一枚手を重ねたフキ、紀保は快く引き受けてくれたという。
その頃、紀保は真っ白なデザイン帳を言葉もなく見つめている。
フキが話す。男の子か女の子かどちらがいい?と。それは生まれてくる子供の話。伊織は答えられないまま、フキの手に残った自分の手を重ねてやる。
その様子を、ガラス戸越しに雄介が見ていた。工作所を出ると固い決意で顔を上げる。
翌日、浮舟で雄介に見合いを勧める和美。雄介は心配しなくても俺は階段を上へ上へと昇ってやると宣言し、護に目配せして二人は別々に出て行く。その直後、雉牟田興行の犬山が護を探しにくる。
同じ日、弥生の仕事のために打ち掛けを調べている紀保のもとに、加賀から電話が入る。みのりのことを忘れろと言ったものの、気に病んでいるふうだったからそのうち会いたいというのだった。紀保はなんのことか見当がつかず、首を傾げる。
一方、電話を切った加賀のもとに、雉牟田が訪ねてくる。調子が悪いから痛み止めを処方してくれという雉牟田。上納金が足りなくて困っているのだという。それは加賀からもらう痛み止めを密売している雉牟田。加賀はこれっきりにする約束だったはずだと断る。すると雉牟田は、伊織に手を出すと脅し、今さら自分だけいい子になるのは許さないと言い残して出て行く。足を洗いたくても洗えずに苦しい加賀。
伊織が工作所から出てくると、蔦子が商店街の酒屋の店主に苦情を言われている。護が怪しい投資話で迷惑を掛けたのだった。そこへ紀保が顔を出す。近くに用事があったのでついでに弥生の資料を渡したいと蔦子に頼む紀保。蔦子が外し、紀保と伊織だけになる。結婚おめでとうと頑張って明るくいう紀保。ウエディングドレスを頼んだことに触れようとする伊織。伊織が了解していなかったことを知らない紀保。話が始まる前に、フキが顔を出す。
仕事に戻る伊織。フキが紀保を事務所に招いてのろけ話をする。婚約指輪は伊織の手作り、伊織がどうしても自分で作ると言って聞かないのだと。釘を刺すフキ。話が作り変わっているとは知る由もなく、紀保は曖昧に微笑むしかない。
その頃、雄介が夕顔荘の庭を計測している。護が夜逃げしていたクリーニング店の跡継ぎを見つけたと伝える。この町を再開発する動きがあり、雄介は土地を目立たないように集めようとしていた。それは雄介の父も母も知らないことで、騒ぎにならないよう隠密に進めなければならない仕事。紅夏のために金が欲しくて協力している護。雄介も惚れた女のために頑張っているのだと呟いている。
紅夏と遊ぶ加賀のもとに紀保が訪れる。紀保の用事とは加賀からもらった電話のことだった。ところがそこへ、護が駆け込んでくる。診察室に逃げる護。すぐに犬山が手下を連れて追ってくる。護が募っていた怪しい投資話は雉牟田興行が元締めで、護は集めた金をくすねたのだった。反撃する護。犬山が怒りに任せて医療用のハサミを握って突進したとき、加賀が割って入る。
騒ぎに伊織や蔦子が駆けつける。入れ替わりに逃げて行く犬山たち。護の無事を喜ぶ蔦子。加賀が奥へ入って行こうとして、不意に崩れ落ちる。気づいた伊織が駆け寄ると、腹部から夥しい量の血が流れている。護を庇おうとして、犬山の突き出したハサミが刺さったのだった。
恨んでいた加賀の行いにぼう然とする護。救急車を待ちながら、自分で応急処置をする加賀。手伝う紀保。加賀は護に、これは雉牟田興行と俺の内輪もめだ、おまえはここにいなかったことにしろと荒い息でいう。護の目から涙がこぼれる。紅夏のためだと加賀。護は逃げるように出て行く。追って行く蔦子。
残った紀保と伊織に加賀がいう。意識のあるうちに言っておきたいことがあると。痛み止めを打ち、息も切れ切れの加賀。みのりは、まとまった金が入ることになっていた、金は口止め料だ、だから、みのりは自殺じゃない、誰かに殺され......。そのまま、加賀は意識を失った。やがて救急車のサイレンが聞えてくる。
救急隊とともに警察が来ていた。護は紅夏を抱き締めて別れを告げると、俺が話しますと警察に申し出た。加賀の気持ちを分かったうえで、逃げずにいた護。
夜になる。紀保は蔦子の代わりに伊織の部屋で紅夏を寝かしつける。
その頃、龍一は杏子から紀保が加賀という医者に会いに行ったと聞きだす。アトリエを出ると厳しい顔を浮かべる。なんだってあの町にこだわるんだ。龍一は決然と出て行く。
伊織はみのりの部屋の前に立ち、南京錠を開ける。時を越えて明かりの灯るみのりの部屋。机の引き出しからなにか取り出す。それはみのりの遺書。じっと見つめる伊織。気づくと紀保が立っている。みのりさんは自殺なんかじゃない。だとしたらその遺書はどういうこと? みのりさんはいったいなぜ...。紀保と伊織は見つめ合う。
7/30「忘れない相手」
龍一がニューヨークから帰国する。空港からアトリエに直行して紀保を抱き締めるが、杏子が来てしまい、愛を語れない。紀保と龍一を引き離したい杏子は、龍一に、紀保が蔦子の仕事を引き受けたと告げ口する。紀保はあの町に住んでいる人が忘れられないのだと。伊織はフキに、心を病んだ母、みずえを紹介する。フキを見て首を傾げるみずえ。フキは戸惑う。心を込めて世話をする、と言うフキに、伊織は求婚する。世話に来たフキに、みずえが、「あの子はどうしたの?」と聞く。それが紀保のことだと気づき、フキは焦りを覚える。フキが紀保のアトリエに来る。伊織との婚約を報告するフキ。紀保はウェディングドレスを注文される。
第44話 「忘れない相手」 7月30日(木)放送
別れを告げた伊織が人生を前向きに生きようと努力し、実際にそう生きているのを見届けた紀保。車椅子の弥生の仕事をきっかけに自分もデザインに取り組み始める。寂しさを押し殺し、一心不乱にデザインを起こしていく紀保の前に、突然、龍一が現れた。驚き、龍一の胸に飛び込んでいる紀保。
その頃、伊織はフキをみずえに引き合わせる。心を病んだみずえに愕然とするフキ。緊張して挨拶する。するとみずえが「?」と小首をかしげる。
一年ぶりに帰国した龍一。驚く顔が見たくて連絡しなかったという。充分驚いたと笑顔をみせる紀保。龍一が抱き締めようとしたとき、杏子が入って来て、龍一は抱き締められなくなる。気まずい紀保。
驚きで口数の減っているフキ。伊織は無理だったかと察して、バス停まで送ると伝える。慌ててフキが制する。伊織が相手なら隠し子がいても構わないと思っていた、お母さんのことは心を込めて世話をする。
伊織はありがとうとフキの手を握る。フキさんとなら一緒にやっていけると思う、結婚しようと。感激するフキ。そして、婚約指輪は伊織の手作りが欲しいと頼む。伊織はためらうが、わかったと答える。フキが伊織を見つめる。そのとき、何かが落ちる音。あんみつを食べていたみずえがスプーンを落としていた。フキは甲斐甲斐しくベタつくみつを拭う。そんなフキを見ながら、伊織はこれでいいのだと心に言い聞かせている。
一方、紀保が打ち掛けでドレスを作ることを知る龍一。すると、紀保と龍一を引き離したい杏子が、リフォームなんてブランドイメージが壊れると反対したが紀保が聞き入れなかった、仕事は蔦子の紹介なのだと告げ口する。紀保はあの町に住んでいる人が忘れられないようだと。かすかにうろたえる龍一。杏子は様子を確かめている。
その夜、浮舟で加賀が酒を飲んでいる。最近、酒量が増えていると心配する蔦子。俺だって忘れたいことがあると加賀は呟く。話を聞こうとする蔦子。ところが護が出て来て蔦子は気を取られてしまい、加賀の話は日の目を見ずに終わってしまう。紀保も伊織も知らない何かを抱えている加賀。
それを知らないまま、紀保は別荘で龍一とともに羽村と会食している。今度こそ結婚するんだろうねと羽村がいう。もちろんだと紀保を見る龍一。紀保は結婚すると答える。
同じ頃、伊織は夕顔荘で銀細工の作業台のカバーを外す。紀保が手紙を残して去って以来、手にしなかった工具。フキのためにそれを手に取ろうとして、脳裏に紀保の姿が過る。贈ったトルコ石の指輪。あなたを愛した私の心を返してと叫んだ紀保。やがて伊織は想いを振り切るように立ち上がり、デザイン見本を繰りだす。
数日後、紀保は浮舟を訪れ、デザインを弥生に見せる。まだ納得していないと説明する紀保。弥生は嬉しそうに紀保と打ち合わせる。
弥生が帰り、蔦子に礼を言う紀保。雄介が護を探しにくる。そこへ護が金魚をもった紅夏と帰る。相変わらずに見える雄介。しかし、雄介は密やかに護を連れ出して行く。
向かいのクリーニング店の角で話す雄介と護。クリーニング店の跡継ぎは護の同級生。借金で夜逃げしていた。連絡を取りたいと雄介。護が話を聞かせろと二人は消えて行く。
入れ違いに広場へ紅夏が出てくる。追ってくる紀保。紅夏は稲荷の祠の裏に、金魚鉢にいれる石を取りに入ってしまう。紀保が困っていると、伊織がスーツ姿で外から帰ってくる。事情を察すると、紀保に上着を預け、祠の裏に潜り込んで行く伊織。
夕顔荘の庭で、金魚鉢に井戸の水を入れてやった伊織。紅夏は夢中になって金魚を覗いている。微笑ましく見る紀保と伊織。紀保が礼を言う。伊織が自分も子供の頃、神社の境内でよくいたずらしたという。思わず笑う紀保。優しい時間。笑顔が交わされ、やがてよそよそしく視線は外れる。
フキはブラシでみずえの髪を梳いている。みずえが手鏡で自分を見ようとして、フキが写り込む。気づかないフキ。みずえが不意にいう。「あなた、あの子と違うのね」。驚くフキ。「あの子、この前、泣いてた、どうしたのかしら」。フキは気づく。それは紀保のことだろうか。フキはシスターから話を聞きだす。わかったのは、紀保が季節ごとにみずえに花を送っていることだった。フキはブラシを知らず知らず握りしめている。
夕方。アトリエで紀保を待つ杏子と龍一。龍一が新居のパンフレットを持っている。気づいた杏子は、私もお隣に引っ越そうかしらと言いだす。慎んでくれないかと龍一が制しているとフキが訪ねてくる。遅れて紀保も帰ってくる。するといきなり、フキがいう。結婚することになった、相手は伊織、彼からプロポーズされた。おめでとうと言うしかない紀保。フキは続ける。それで、ウエディングドレスは紀保さんにお願いしたい。みずえが紀保を知っているのを知って、焦りのあるフキ。
戸惑う紀保が口を開こうとしたとき、杏子が答えている。喜んでお引き受けします、と。
フキが帰り、紀保は断ろうと思ったのにと杏子を詰る。すると杏子は、伊織のことなどなんとも思っていないとわからせるいい機会だという。杏子が知っていたことに驚く紀保。私はハムラキホの一番の理解者です、悪いようにはしません、信じて下さいと杏子はいう。
一方、紀保にあの町に関わって欲しくないと杏子に怒る龍一。すると杏子はいう。仕事には口を出さないで下さい、ここは紀保さんと私のアトリエなのだからと。
働いている伊織の背中からフキが胴に手を回す。みずえの世話に行ったと知って、礼を言う伊織、手を重ねる。するとフキは続ける。帰りに紀保にウエディングドレスを頼んで来たと。動揺する伊織。その動揺を見透かして、フキは伊織の手の上から、もう一枚手を重ねて押さえる。紀保さん、快く引き受けてくれたわ、と。
7/29「時の流れ」
蔦子に相談された打ち掛けをウェディングドレスに仕立てる仕事に、デザイナーとして再起するチャンスを感じた紀保は、依頼者と会うため、一年ぶりに下町を訪ねる。雄介に連れられ、紀保は柴山工作所を訪ねる。伊織の働きで息を吹き返した工場は、職人が増え、新工場の完成も間近だった。紀保はそこで意外な人物と再会する。伊織と話す機会もなく帰る紀保に、護がつきまとう。伊織が助けてくれ、紀保は夕顔荘へ案内される。紀保が紹介してくれた仕事のおかげで、工場も自分も立ち直ることができた、と感謝する伊織。幸せに、と紀保に告げる。フキと幸せに、と紀保も伝える。紀保と会った加賀が、みのりの件で妙なことを言う。
第43話 「時の流れ」 7月29日(水)放送
そのお客様にドレスを作ってあげたい。蔦子の仕事に再起をかけた紀保は、夕顔荘のある町に足を踏み入れる。雄介は宅建の試験に合格し井口不動産の若社長に、フキは柴山工作所の社長になっていた。お使いに行って紀保を見つけた紅夏は豆腐を買い忘れている。笑い声が響くなか、紀保と伊織はそっと顔を見合わせる。
浮舟で蔦子に依頼人と引き合わされる紀保。野島弥生は蔦子の知り合いの娘、子供の頃の事故のために車椅子で生活していて、和装は身体に負担がかかるため、母の形見の打ち掛けをウエディングドレスに作り替えたいというのだった。弥生は活発な女性で、紀保はこの人のためにドレスを作りたいとますます意欲が湧く。
仕事を終えた紀保。呼んで悪かったという蔦子に、懐かしい人に会えてよかったと告げる。その頃、雄介が浮舟の向かいのクリーニング店の奥行きなどを何やら測っている。紀保に気づくと慌ててメジャーをしまい、会わせたい人がいると工作所に連れて行く。
フキが新工場の完成図を見せてくれる。新工場では大量生産品を、父のためにこの町の工場も残して手作りの特注品を作ることになっている。フキは遺産相続で世話になった龍一とは今も連絡を取っていて、紀保たちが結婚していないことを知っていた。何かあったのと聞くフキに、紀保は曖昧に答える。工場を守れたのは苦労してネジを作った伊織のおかげだというフキ。話している間にも仕事の電話がかかってきて、紀保はフキを眩しく見つめる。ガラス戸の向こうでは伊織が若い職人たちに仕事を教えていた。
そうこうしていると雄介が「会わせたい人」を連れてくる。驚いたことに柏木だった。伊織がどうしてもと声をかけ、工作所の技術開発をしているのだという。思わず伊織を探す紀保。作業場からは伊織が紀保を見ていて、紀保の視線に気づくと目を逸らす。それを見る紀保。紀保に気づいたフキが伊織を呼ぶというが、紀保は仕事の邪魔になると断る。
加賀診療所では護が待合室に押し掛け、町の面々を相手に熱弁を振るっていた。乾燥フカヒレを見せる護。サメの養殖に成功した会社がある、絶対損はさせない一口十万と滑らかな口上で怪しい投資話に勧誘している。いい加減にしろと診察室から出る加賀。騙されそうになっていた面々は正気に返ってしまう。邪魔をされ、あんたが裏で何をやっているか出るとこ出てしゃべろうかと凄む護。加賀が護の肩を掴むところへ、紀保が顔を出す。
挨拶に来た紀保。加賀が護は俺が気に食わないのだと説明する。喧嘩した護がナイフで刺され運ばれて来たことがあった、命に関わる深手だったので手当てして警察に連絡した、だが護も相手に傷を負わせていて、通報のせいで護も逮捕されたことがあるのだと。それはいつか伊織から聞いた話。よかれと思ったことが逆に恨みをかうこともある、世の中ままならないと苦笑する加賀。紀保は、知らないうちに誰かを傷つけていることもあると口にし、ふと我が身を振り返っている。すると、そんな紀保に加賀が、まだ結婚してないようだがあの事件は早く忘れた方がいいと告げる。みのりの自殺は釈然と、と言いかけて止め、死んだ人間に振り回されることはない、忘れるのがいちばんだという。紀保は分かるような分からないような話で、曖昧に頷く。
診療所から出ると護が待っていた。懐かしい護だが、加賀の言葉が気になって戸惑っていると、声がかかる。彼女、俺と約束があるんだと伊織がいう。
夕顔荘は一年前と同じくひっそりと佇んでいた。懐かしく見る紀保。玄関を上がろうとして気づく。みのりの部屋には、今も、南京錠が掛けられていた。
台所に案内される紀保。変わらないようでいて冷蔵庫が大きくなっていた。今は若い職人たちが柏木とともに二階で暮らしているのだという。柏木に驚いたと紀保。一年前、伊織は柏木を、努力もせず甘ったれていると切り捨てたのだ。みのりに恋をし、その遺書を隠し、就職も見つけられずにいた博士の柏木。紀保は伊織の心に触れ、温かく笑う。伊織は柏木の研究に興味があったと話し、研究内容を説明し始める。気づいて、退屈だろと止める伊織。ちっとも退屈でない紀保。それは一年前にいた二人。
ふと伊織は、工場がここまでになれたのは紀保のおかげだと言う。紀保の紹介してくれた「複雑なネジ」の仕事のおかげで工場も、そして俺自身も立ち直ることができた。できれば会って直接、伝えたかった、ありがとう。嬉しい驚き。でもそれは切ない嬉しさ。伊織が龍一さんとはと尋ねる。紀保は答える。彼が海外から戻ったら結婚すると。そうと呟く伊織。紀保は帰ろうと立ち上がる。伊織が思わず「紀保」と呼び止める。他に言いようがなく、幸せにと口にする伊織。紀保も、フキさんと幸せにと告げている。
玄関から出てくる紀保。涙をこらえる。縁側に立つ伊織。それぞれに想いを振り切る。生きようとし、立ち直ろうとし、時は流れていた。
夜。伊織がひとり工場を片付けていると加賀が来る。加賀は耕三の一周忌も過ぎたことだし、フキとの結婚をはっきりさせてやれという。自分だってみのりが自殺したとは思いたくない、でもみのりの死にこだわるのはよして前を向いて進むんだと。そこへフキがくる。伊織はフキに、連れて行きたいところがあると告げる。
同じ夜、紀保はこの一年で初めてデザイン帳を手に取る。思い切って最初の線を引く。動き始めた手は後から後から線を紡いでいき、その日から紀保は一心不乱にデザインを生み出して行く。気づくとドアが開いていて、立っていたのは龍一だった。
フキは戸惑っていた。みずえが泣いていた。お父さんが帰ってこないの、どうしよう、伊織、と。伊織に介抱される心を病んだ母。フキは愕然として二人を見つめる。
7/28「生きる」
怒りや憎しみが生きる力になるよう、とことん憎めばいい。お前の憎しみは俺が引き受ける」──死を選ぼうとした紀保を、伊織が引き戻した。互いに強く求め合う二つの心。愛してはいけないと知りながら、紀保と伊織は結ばれた。生きていくこと決意した紀保は、伊織のもとを去り、龍一に婚約解消を切り出す。そんな紀保に、龍一が羽村から教えられた自分の想いを話す。恋はいつか消えるが、愛はいつまでも消えずに残る、と…。母のように死を選んだりはしない、生きようと決意した紀保だが、ウエディングドレスのデザインがまるで出来なくなる。幸せをカタチにすることなど、今の自分にはできないという紀保。杏子が、自分がついていると慰める
第42話 「生きる」 7月28日(火)放送
伊織に助けられ、一夜をともにした紀保は心中した母とは違い、生きる決心をし、伊織に別れを告げた。別荘で龍一と会うと、龍一にも婚約を解消して欲しいと申し出る。龍一は紀保の母が伊織の父と心中したことを知っていて、紀保が責任を感じることはないという。紀保は母のことが理由ではない、自分自身が愛の誓いを破った、それなのにあなたと結婚すれば母と同じ過ちを犯すことになると告白する。自分の気持ちは変わらないと伝える紀保。すると龍一は、それなら気持ちが変わるまで待つという。拘置所の独房で人生のすべてを失ったと感じていたときに生きる力を与えてくれたのは君の手の温もりだった。恋はいつか消える、だが愛はいつまでも消えずに残る。だから紀保の気持ちが変わるまでいつまでも待つと龍一は宣言する。
廊下では羽村が二人のやりとりを聞いていた。龍一が自分に代わって紀保を守る役割を力強く果たすのを見届けると、安堵と寂しさを交えてその場を離れていく。
伊織を待っていたフキが事務所で目を覚ますと、伊織は工場で働いていた。何事もなかったように働いている伊織。フキがためらいながらも明るく声をかけると、伊織が「できた」と突然、言う。耕三に言われたことがようやく分かった、見えない芯を掴むことができた、これでもう、どんなに複雑なネジも作れる。そういうと会心の笑みを浮かべ、作業に没頭する伊織。フキは何も聞かず、代わりにてきぱきと事務を始める。伊織は一心に仕事をしていく。
アトリエで紀保を待つ杏子。ドアが開き、紀保が帰ってくる。杏子は何も聞かず、てきぱきと仕事を始める。ところが、差し出されたデザイン帳を紀保は取り落とす。苦しみのあまりデザインができなくなっていた。ようやく感情が溢れ出し、崩れ落ちる紀保。すると杏子は、紀保の肩に手を置き、慰める。苦しいのだろう、でもいつかまた心から幸せを感じる日がくる、その日まで自分は傍にいる、約束すると。傷ついた紀保を杏子が抱き締める。紀保はその腕に身を委ねている。そして時が流れる──。
一年後。再び夏が巡ってきていた。紀保はアトリエのブライダル・パーティーを開き、成功させる。だがホールの華やかな賑わいをよそに、紀保はふと疲れた顔を浮かべる。やがて喧噪から逃れるように会場の外へ出ようとする紀保。その階段の途中で、信じられない顔を見つける。振り仰いだ階段の上に見たのは、スーツ姿の伊織だった。
急ぎ足でホールの外に出る紀保。「待って」と声が追いかけてくる。息を弾ませ、かけてきた伊織。同じホールの別会場で仕事の打ち合わせに来たのだという。紀保は約束があると短く話を切り上げ、その場を立ち去る。仕方なくホールに戻ろうとする伊織。やがて振り返るが紀保の姿はもうない。諦めて中へ入っていく。紀保は柱の陰に身を隠し、動悸を抑えるように立ち尽くしていた。
夕方、ブライダル・パーティーの成功を祝うスタッフたち。けれども、展示されたドレスはすべて、杏子がハムラキホの名前でデザインしたものだった。いまだに紀保はデザインできずに、もがき苦しむ生活を送っていた。いい機会だからスタッフに打ち明けたいという紀保。杏子は、これでいいんですと止める。ハムラキホの一番の理解者は私、私たちは一心同体だと思っています、と。杏子に感謝しつつも、限界を感じている紀保。ひとりになると龍一のエアメールを手に取る。龍一は一年前、仕事を休んで静養していた紀保に言った。アメリカで働いて勉強してくる、一年は帰らない、婚約を解消するかどうかはそれから決めても遅くはないと。紀保はいつか龍一の残していった婚約指輪を手に取っている。
その夜、夕顔荘に帰った伊織はネクタイを解くとふとカバーのかかった作業台に目をとめる。カバーをめくると、脳裏に一年前、銀細工に歓声を上げた紀保が甦る。伊織は怒ったようにカバーをかけ直す。
そんなある日、蔦子がアトリエに訪ねてくる。知り合いの娘にウェディングドレスを作ってほしいと頼まれたが、自分には荷が重過ぎると紀保に頼みに来たのだった。それは母親の形見の純白の打ち掛けをドレスにリフォームするというものだった。
紀保から話を聞いた杏子は、アトリエが古着のリフォームを請け負うことに反対する。しかし紀保は、蔦子から聞いた客の事情に、一年ぶりに仕事への意欲を感じていた。デザイナーとして再起できる。紀保は杏子の反対を押し切り、蔦子の仕事を引き受ける決心をする。
柴山工作所は一年前とは大きく様変わりしていた。不況にもかかわらず、その技術で生き残り、職人の数も増え、今や新しい工場を造る計画を進めるまでになっていた。
そんななか、紀保は蔦子に会うため、ふたたび夕顔荘の町に足を踏み入れる。
7/27「海、月の舟」
父・羽村から、過去の秘密を聞かされた紀保の行方が、わからなくなる。伊織とみのりが実の兄弟だと知った龍一が、何の企みだと伊織に殴りかかる。伊織が応戦し、殴りあう二人。やがて伊織は龍一に自分の過去を話し、紀保にはみのりの秘密を黙っていて欲しいと土下座する。紀保を傷つけまいとする伊織に、龍一は紀保への愛を思い知る。紀保は、みずえと伊織から幸せを奪った母と、何も知らずに生きて来た自分自身を許せない。絶望に打ちひしがれた紀保は、海沿いの崖の上に立ち、死を選ぼうとしていた…。
第41話 「海、月の舟」 7月27日(月)放送
龍一が伊織を殴る。みのりが妹であることを隠して何を企んでいたのか。胸ぐらを掴んで迫る龍一。すると伊織もこれは強制ですか、弁護士さんと敵意を剥き出しにし、殴り返す。様々な感情がないまぜの伊織。怒る龍一。二人が殴り合うところにフキが駆けつけるが間に入れない。
紀保はみずえのもとを訪れていた。どうか許してくださいとひざまずく紀保。みずえが「許す?」と聞き返す。そのとたん、紀保は口にしている。いいえ、許さないで、あなたから愛を奪った母を、許さないで──あなたの憎しみが、せめて生きる力になるように。紀保の頬に涙がつたっている。するとみずえが、不思議なものでもみるように、そっと手を伸ばし、涙をぬぐう。されるがままの紀保。やがて我に返り、一礼すると出て行く。
放心しているみずえ。傍らのラグビーボールに気づくと、不意に奇声をあげてボールを殴り、手首に噛み付く。
殴り合い、吐き出した伊織と龍一。夕顔荘の縁側で、伊織はみのりのことを告白する。紀保の母が伊織の父を道連れに心中したこと、妊娠していた伊織の母が生んだのがみのり、新潟の造り酒屋に養子に出され、養親との折り合いが悪く、家業も傾き、三年前に家を出て伊織の前に現れた。愕然とする龍一。だとすれば、みのりは生い立ちを知り、紀保を苦しめるために自分に近づいたことになるのか...。すると伊織は、みのりは命を絶つことでその責めを負った、どうか許してやって欲しいと謝る。そして龍一を見つめて言う。紀保には言わずにいて欲しい、みのりが彼女を恨んでいたことを知れば、紀保がまた傷つくことになる。土下座する伊織。お前、やはり紀保を愛しているんだな。伊織は頭を下げ続ける。怒りと嫉妬で見つめる龍一。
夕顔荘から呆然と帰る龍一。蔦子が気づく。
一人、紀保を想っている伊織。蔦子が来て、龍一との争いの原因は紀保さんねと問う。会っては行けないという誓いを破ることが罪だって言うんなら、一緒に罪を被ってやればいい。違うと言いかける伊織を、蔦子は制する。人間、いつか灰になる、それまでの命をどう燃やすかで人の値打ちは決まる。いますぐ紀保のもとへ行けという蔦子。伊織は彼女のことなんて何とも思っていない、いなくなってせいせいしていると遮り、自室へ消える。じれったいとため息の蔦子。夕顔荘の廊下の電話が鳴る。
電話はケアハウスからだった。みずえがいつも以上に興奮している、いつもはしない自傷行為をしたという。伊織は紀保が来たのだと察して、飛び出していく。母とかなんとかわけが分からないまま、置いていかれる蔦子。
浮舟ではフキがじっと考え込んでいた。雄介の慰めも耳に入らない。喧嘩の原因は紀保ねと勝手に思い込んでいる。路地を伊織が足早に行く。追って出ようとするフキは人とぶつかる。紀保と連絡が取れなくなり、探しにきた杏子だった。
そんな杏子に、フキはあなたも紀保が伊織と何かあると思ってるのかと勢い込む。伊織の名に戸惑う杏子。それが紀保がこの町にこだわる理由だったのか。だとすれば...。杏子は胸騒ぎを覚える。紀保はまさか、その人と...。
紀保は海に臨む崖の上にいた。かつて伊織は言った。あんたが俺と会わないと決めたように、俺もあんたとは会わない、お互いその方がいいと。伊織の言う通り、私たちは会うべきじゃなかった。伊織の苦しみ、みずえの苦しみ、父を裏切り、苦しみを生み出した母。紀保の足が眼下の海へ踏み出そうとする。その瞬間、紀保の腕を力強く掴む腕。お前の進む先はそっちじゃない。伊織だった。
紀保は放してともがく。母が憎い、あなたや、あなたの愛する人を不幸にして、何も知らずに生きてきた自分が憎い、許せないのだと。伊織が力強く紀保を抱き締める。だったら憎め、お前の怒りや憎しみがお前の生きる力になるように。お前の憎しみは俺が受け止める。驚く紀保。伊織が力強く口づける。伊織の抱擁のなかで、紀保は堰を切ったように伊織に口づけている。
糸のような三日月が浮かんでいる。龍一は海辺の別荘で羽村と会っていた。24年前の夏の出来事、羽村はそれを事実だと認め、龍一にいう。恋はいつか消えてしまうが、愛はいつまでも消えずに残る、そうじゃないかと。羽村の言葉を胸に刻む龍一。紀保を愛している、彼女と生きるという誓いを守るときがきた、必ず紀保を不幸にしないと告げる。頼んだよと龍一の肩に手をおき、出て行く羽村。龍一は窓外の月をじっと見つめる。
月明かりのなか、忍び込んだ海辺のコテージに紀保と伊織はいた。紀保を横たえ、優しく口づける伊織。その腕のなかで、紀保は母への思いがゆれていく。許せない、憎い母。けれども、命を捨ててまで身勝手な愛を貫いた母の気持ちがわかる気がする。自分も同じ、愛してはいけない人を愛してしまったから。伊織の手に手を重ねる紀保。心に刻んだ愛の誓いを破ってまでも、今は愛する人と二人、月の舟に...。伊織の手を握りしめ、紀保はいつかすべてを忘れ、愛に身を任せている。
せめて空に、朝の光が戻るまで...。
翌朝、伊織は紀保を起こさないよう起き上がるとコテージを出る。蔦子に連絡を入れ、朝食の買い物をし、コテージに戻ると紀保の姿はなく、メモが一枚残されていた。「私は母とは違う。生きていきます」。別れを告げる紀保のメッセージ。伊織はゆっくりと顔を上げる。
一睡もせず、夜を明かした龍一。振り向くと、紀保が立っている。
7/24「愛」
紀保の母と伊織の父は心中していた。父・羽村から真実を聞かされた紀保は、伊織に会いにいく。伊織は、紀保の母親は自分の父親を奪い、自分の母親、みずえを不幸に突き落とした女だ、と告げる。そして24年前の秘密を明かす伊織。自分は何も知らずに生きてきた。そして伊織を愛した。紀保は自分の愚かさに打ちのめされる…。その頃、耕三の遺産相続を進める龍一は、伊織の戸籍謄本を取り寄せて驚愕する。
第40話 「愛」 7月24日(金)放送
自分の母と伊織の父の秘密を知っていたのかと問う紀保。伊織は答える。知っていた、あんたの母親は俺の父を道連れに無理やり心中した、言うなればあんたは憎むべき仇の娘だと。自室に入っていく伊織。紀保は納得できないと追いかける。
なぜ一緒に死んだのに一方的に悪く言われるのか。伊織が答える。父が死んだ日、父は用事を済ませたら戻る、戻ったら家族で出かけようと言ったのだと。伊織の父が遺した手帳には生まれてくる子供のための名前がいくつも記されていた。伊織の父は、生きようとしていた。
愕然とする紀保。話は続く。それからまもなく母は予定より早く子供を生んだ。産後の疲れと父が死んだショックで精神のバランスを崩した。そして、生まれたばかりの赤ん坊は...。言葉に詰まる伊織。どうしたのかと聞く紀保。赤ん坊は死んだ。
かつて聞いた伊織の誓い。母を苦しめ、不幸にした女を絶対に許さない。それは羽村紀佐、紀保の母親のことだった。
いつしか紀保の頬に涙がつたっている。伊織にとって自分は憎むべき女の娘だった。伊織は初めて会ったときからそれを、何もかもを知っていた。それなのに、なぜ黙っていたのか、なぜ同志だなどと誓ったのか、なぜ指輪なんて渡したのか。伊織のくれた指輪を見た時に、どうしようもなく伊織を愛している自分を知ってしまったのだ。これが伊織の復讐なら、伊織は勝ったことになる。指輪を返す。そのかわり、何も知らずにあなたを愛した私の心を返して欲しい。
どうにもできないなかで、どうしようもなく紀保は悲痛な叫びをあげた。伊織はどうしようもなく、背を向け、棚から封筒を取り出した。だったらこれも返しておく。娘には話すなという口止め料だったんだろうがもう意味もないと伊織。それは羽村が伊織に渡した小切手だった。紀保が突き出した指輪と、伊織が差し出す小切手が悲しく交錯する。涙の目で伊織を睨む紀保。踵を返して飛び出していく。
空はすでに白みかけている。川岸まで走ってきた紀保。手には伊織の指輪。投げ捨てようと迷い、やがて手を振りかざす。
小切手を破り捨てた伊織は見るともなく庭を見ている。不意に弾かれたように飛び出していく。
川面を見つめている紀保。やがて背を向け、橋を渡っていく。その後から伊織が駆けつける。気づかずに去っていく紀保。どこを探しても紀保の姿はなく、やがて伊織は肩を落とす。
夜が明ける。秘密を打ち明けた昨夜から紀保の行方が知れない羽村。アトリエで紀保の身を案じ、杏子に指示を出す。そこへ紀保が明るく出社してくる。杏子が出て行くと、紀保の手を羽村が握る。私はお父さまの娘、これまでどんな想いで育ててくださったか、感謝していますと微笑む紀保。羽村は安堵して涙ぐむ。
伊織は一心にネジを研磨していた。鬼気迫る姿に、人が変わったようだと噂する雄介。フキは、耕三が死んでから一層、責任を感じているようだと話す。そして、やはり工場を続けたい、耕三の遺志だけでなく、工場を止めてしまえば近所や雄介との付き合いも失ってしまうと語る。でもそのためには伊織が必要なのだ。そんなフキに、雄介は頑張って宅建の試験に受かるので待ってて欲しいと話す。フキは雄介を気にしつつも、寂しげに伊織を見る。
仕事を始める紀保。愛用の赤いピンクッションを腕に嵌めようとして母のことを思い出す。それは母の遺したピンクッション。泣いてるだけの女になるなと約束させた母。その母は自分を捨て、父を裏切り、多くの人を不幸にした。その母と約束したからじゃない、母の不幸に負けて泣いたりなんかしないと心に思う紀保。笑顔で接客しようとし、不意に崩れ落ちる。客の前から逃げ出すと、幸せなフリしてドレスなんか作れないとうめいてピンクションを投げ捨てている。アトリエを飛び出す紀保。杏子はピンクッションを見つめると、腕に嵌める。
客の前で杏子は堂々とその責を果たした。感嘆するスタッフ。揺るぎない決意を持って杏子はアトリエを切り回す。そこに龍一が帰ってくる。杏子は龍一から紀保の異変の事情を探ろうとする。はぐらかす龍一。ひと仕事を終えた杏子がピンクッションを紀保がいつも仕舞う位置に返そうとしたとき、書類を見ていた龍一が「どういうことだ」とうめく。そのまま飛び出していく龍一。
伊織はフキの言葉にやや驚いていた。フキは和美の進める結婚話を待って欲しいと断ったというのだった。借金を返すのが先、セリとも話し合う、仕事と借金のほかに私の将来まで背負わされたら責任が重過ぎるもんねと精一杯笑うフキ。伊織は小さく礼をいう。皮肉にもそれは紀保と伊織の仲が壊れた後のことだった。仕事無理しないでと健気にいうフキ。そのとき、龍一が荒々しく踏み込んでくる。
夕顔荘の庭で、龍一は伊織に、どういうことだと書類をつきつける。それは遺産相続の件で取り寄せた伊織の戸籍謄本だった。謄本には龍一のよく知る名前──吉川みのりの名前があった。君たち実の兄妹だったんだな、なぜ黙ってた、お前たちいったい何者だ、何を企んでる。伊織の胸ぐらを掴む龍一。伊織はふっと表情を変える。
その頃、紀保は海辺のケアハウスにいた。この女はね、パパだけじゃない、今度はあなたまで奪うつもりなの。なんて怖い女かしら、羽村紀佐って。正気のないみずえを前に、紀保はひざまずく。どうか許してください。みずえが「許す?」と聞き返す。紀保は口にしている。いいえ、どうか許さないで、あなたから愛を奪った母をどうか許さないで...。
7/23「秘密の夏」
父・羽村と伊織の母・みずえの関係に疑惑を抱く紀保は、羽村の母校のラグビー部の古い名簿に、意外な名前を見つける。紀保は羽村からそれとなく過去の秘密を探る一方、羽村と同じラグビー部の後輩である龍一にある調査を頼む。龍一の調査が終わり、紀保は自分の知らない秘密があることを確信する。それは紀保と伊織を結ぶ一本の線。紀保はついに過ぎ去った秘密の夏を知る…。
第39話 「秘密の夏」 7月23日(木)放送
紀保が見たラグビー部のOB会の名簿。父の名前の数行上に、「瀬田伊久馬」という名前があった。伊織と似たその名前にどんな意味があるのだろう。
夏が盛りを迎えていた。紅夏とプールに行く護。護の忘れ物を追いかける蔦子。浮舟で勉強に励む雄介。その雄介を追い出して、和美が伊織を呼び出す。
同じ頃、自宅のドアから工場へ飛び出してくるセリ。伊織とフキが二人で工場を続けるなら土地と建物をフキに相続させるという耕三の遺言が納得いかないセリ。お姉ちゃん一人にいい思いはさせないとフキを振り切る。工場を出たセリ、そこに浮舟から追い出された雄介。
和美の用件はフキとの結婚のことだった。耕三の気持ちは分かってるでしょう、仲人ならやるからという和美。そこへフキがセリを探しにくる。急ぎの仕事があると出て行く伊織。和美の口ぶりに、フキは伊織が結婚の話を避けたのだと知る。
その頃、夕顔荘の空き部屋に、セリが雄介を引っ張り込んでいた。自分だってお父さんに認めてもらおうと頑張っていたのに、遺言は不公平。雄ちゃんは不動産のプロ、何とかできないかと相談するセリ。不意に雄介の肩に手をかけると、私と手を組まないかと言い出す。フキと伊織が一緒にならなければ工場は続けられなくなり、フキが一人で相続することもなくなる、雄介はフキ、セリはお金、お互いにメリットがある。両手を雄介の肩にかけて誘惑するセリ。そして、初恋の相手は雄介だったのだと告白する。だから、バレないよう工場を売っ払えないかと。すんでのところで雄介は口にする。そんなこと言うの、セリちゃんらしくない。綺麗なんだから、自分を汚しちゃいけない。だってホントに綺麗なんだもん。セリの目からポロっと涙。そんなこと誰も言ってくれなかった。しがみついて泣きじゃくるセリ。フキと伊織を引き裂く企みは成立しない。
フキは伊織に話しかけようとする。仕事に熱中している伊織。結婚のことを言い出そうとして諦めるフキ。
暑い夏の日が続いていた。休日の羽村。紀保はついに「瀬田伊久馬」という人物を知らないか聞いてみる。仕事で新聞社の資料を調べたい、OB会の名簿に新聞社に勤める「瀬田伊久馬」という名前を見たと。だが羽村は記憶にないという。そこに龍一がOB会の事務で羽村の手伝いにくる。紀保は父に隠して、龍一にあることを頼む。
うだるような暑さのなか、龍一は夕顔荘の庭でアイスキャンディーを食べている。同じくアイスを食べる伊織。龍一が耕三の遺言について尋ねる。フキと結婚する気はないのかと。結婚しろとは書いてなかったはずだと伊織はいう。結婚は自由意志による、遺言で自由を制限することはできない、違いますか、弁護士さん?と、遺言書の手続きを引き受けた龍一の思惑に切り返す伊織。龍一は「負けたよ」と笑みをもらす。そして何気なく口にする。君のお父さん、僕の大先輩なんだね、城成大ラグビー部の瀬田伊久馬さん、偶然、名簿を見ていて気がついたんだ、今、どうしてらっしゃるの?と。伊織は、とっくに死んだと答える。小学校に入って初めての夏、今から24年前。
瀬田伊久馬の実家は町の小さな印刷屋、奨学金で城成大に進み、新聞記者になったが、若くして亡くなった──紀保は瀬田伊久馬が伊織の父なのか確かめて欲しいと龍一に頼んだのだった。ホッとして笑う紀保。調べた理由を聞かせてもらう約束だと龍一。紀保は打ち明ける。伊織の死んだ父とは自分の父のことじゃないかと疑っていたのだと。それはとんでもない杞憂だった。心が軽くなった紀保。龍一はそんな紀保を抱き締め、これから出張に行くという。見送ろうとする紀保。その間際、龍一が言い足す。そう言えば、彼は父親が死んだ日のことをよく覚えていた。今から24年前の、夏にしては風の冷たい日だったそうだ──伊織は母と海辺に立っていた。小さな舟の黒いシート。その下に変わり果てた父。不思議と涙は出なかった。ただ握りしめた母の手が氷のように冷たかった。24年前の冷たい夏、8月29日を俺は忘れない──24年前の8月29日、それは、紀保の母が死んだ日だった。
みずえがいつものようにあやとりをしていた。やがて真顔になるみずえの口から呪詛がもれる。「絶対に許さない、あのツンと取り澄ました女、羽村紀佐」。
君が伊久馬の名前を出したときから、いずれこの日が来ると思っていた。紀保の覚悟を見た父はそう言うと話し出した。紀佐を愛して養子を受け入れて婚約した羽村。ラグビー部の誰もがお姫様扱いする紀佐にぞんざいな口をきく伊久馬。そんな伊久馬に魅かれていった紀佐。二人の初恋。それを知っても羽村は、恋はいつか消えてなくなるが愛は消えずに残ると信じた。そして実際、紀佐自身が羽村を選び、紀保が生まれ、家族は幸せになった。ところが、羽村エンタープライズの社長だった紀保の祖父に贈賄疑惑が持ち上がり、押し寄せた新聞記者のなかに伊久馬がいた。不正を暴こうとする男と取材から家族を守ろうとする女、真剣に向き合うなかで、恋の情熱が再び燃え上がる。それは学生時代の甘い恋ではなく、人生をやり直すには遅く、すべてを諦めるには早い二人が選んだ先は、24年前の冷たい夏。羽村は別々に見つかった二人の死を事故として処理した。世間にも自分にも嘘を吐き通すこと、それが身勝手な愛を貫いた二人に対する、自分のせめてもの報復だった──。
夕顔荘の廊下で伊織が自室に戻ろうとしていた。暗がりに紀保が現れる。私の母とあなたのお父さん、二人の秘密をあなたは知っていたのね。紀保はまっすぐに伊織を見つめる。
7/22「疑惑の香り」
紀保は心を病んだ伊織の母・みずえが療養するケアハウスから、父・羽村が出てくるのを目撃する。みずえの部屋に、羽村と同じコロンの香りが残っていたので、どきっとする紀保。もうすぐ伊織に妹ができる、とみずえは嬉しそうに紀保の手を取ると、不自然にふくらんだ自分の腹部にその手を押し当てる。次の瞬間、みずえは、「これでもまだあの人を奪うつもり?」と紀保に問う。その意味を想像して、紀保は激しく戸惑う。父は伊織の母との間に秘密を隠している。そう疑惑を抱いた紀保は父のことを調べ始める。やがて疑惑を深めた紀保は意を決して伊織を呼び出し、伊織の父が実は生きているのではないかと尋ねる。
第38話 「疑惑の香り」 7月22日(水)放送
偶然、一目会えたら、指輪のお礼が言いたい。海辺のケアハウスを訪れた紀保。その表になぜか羽村がいた。シスターに案内されてみずえの部屋に入ると、よく知ったコロンの匂いがする。それは父のコロンの匂い。あやとりするみずえ、その髪に優しく触れる羽村...。想像が過る。そんなことがあるだろうか!
気づくとみずえがにっこり笑って手招きしている。伊織のお友達? あの子もうじきお兄ちゃんになるの。見ればみずえのお腹は以前より膨らんでいる。みずえが、触ってみる?と聞くや否や、紀保の手を掴み、腹部に押し当てる。今度はきっと女の子と恍惚とするみずえ。紀保が手を引こうとした瞬間、いう。「これでもまだ、あの人を奪うつもり?」。形相が変わっている。とつぜん紀保に飛びつき、「この子から父親を奪わないで」と首を絞めようとする。「この女、悪魔よ!」。シスターが駆けつけ、ようやく逃れる紀保。次の瞬間、暴れたみずえのお腹から何か転がり落ちる。それは古いラグビーボール。うっすらと「東京城成大」の文字。それは、父の母校だった。
ちょうどラグビー部のOBチームが90周年を迎え、羽村は記念行事の代表に推薦されているところだった。愉快そうに電話している羽村。別荘の廊下で耳をそばだてる紀保はやがて父に食後酒を出し、何食わぬ顔で聞いてみる。大切にしているラグビーボールは学生時代のものなのか? 卒業時に古いボールを記念に持ち帰り、新しいものを寄付するのが部の伝統だと羽村。そして、今日の昼は仕事だったという。何気なく父のボールを確かめる紀保。しかし、みずえのボールと違い、そこに「東京城成大」の文字はなかった。母が亡くなって24年、デートする人はいないのかと聞いてみる。いたらとっくに再婚していると笑う羽村。紀保も笑って、父の隣に座る。すると確かに昼間のコロンの匂いがする。お母さんが好きだったコロンだと父は笑った。
以前、ケアハウスのシスターは言った。伊織の父は海の事故で亡くなった。そのせいか、みずえは今でも海を見たがる...。そして、この子から父親を奪わないでと飛びついたみずえ...。ふいに記憶が甦る。「瀬田と言います。瀬田伊織」──伊織はそう言うと、射すように父を見つめた...。「あの二人、もしかして...」。紀保のなかに疑惑が募る。
翌日、下町には龍一が耕三の遺言書の手続きに来ている。先日の電話で、フキが龍一に頼んだのだった。今はフキの力になれない雄介は浮舟で、必死で勉強している。
遺言書には、フキと伊織が二人で工場を続けるなら土地も建物もすべてフキに相続させる、工場の存続が無理なら財産の1割を伊織に贈るとあった。全部姉が相続するのが納得いかないと抗議するセリ。伊織さんも1割もらって出て行く?と。セリには遺留分があるが、お父さんは工場の存続を望んでいると龍一。セリはむくれて出て行ってしまう。すると龍一が伊織に問う。君にも聞きたい、フキさんとここを続ける気があるのか、それとも贈与を受けてここを離れるか、あるいは相続放棄か。
伊織は答える。いまは受けた仕事の完成、そして工場の借金の返済、それだけです。あとはフキさんとセリさんのいいように。伊織は出て行く。かすかに落胆するフキ。やっぱり私と一緒になる気なんてないんだ。龍一が優しく励ます。今のは相続の話だ、僕もフキさんたちには幸せになって欲しいと思っていると。フキと龍一の利害は一致していて、フキが依頼し、龍一はここにいた。
アトリエで働く紀保。デザインブックにいつか描いているのはラグビーボール。そこへ龍一が帰ってくる。さりげなくラグビー部のことを聞いてみる。龍一と話す父の話。羽村は学生時代に紀保の祖父に当たる羽村エンタープライズの前の社長に見込まれ、その後、養子に入った。紀保の母が応援に来ると必ず勝つため、「勝利の女神」とOB会でも伝説になっている。父にはその頃、ほかに好きな人はいなかったのだろうか。社長に限ってないと笑う龍一。人の心はわからない、目には見えないものと紀保。龍一が紀保の髪にふれ、君は僕のほかに忘れられない人でもいるのかなと問う。ええ、いるわ、伝説の勝利の女神。ふっと笑う龍一。さりげなく龍一から離れる紀保は笑っていない。
みずえが伊織にしがみつく。私からあなたを奪うつもりなのよと。伊織はシスターから聞かされる。また紀保が来ていたと。そしてシスターは、もうひとり古いお知り合いが来たと告げ、封筒を渡す。思い当たり、開けてみる伊織。中から小切手が出てくる。困惑する伊織。そのとき、携帯電話がなる。
翌日、あの橋の手前の公園に伊織を呼び出したのは紀保だった。樹木のかげに隠れている紀保。もう会わないと決めたから、このまま話したい。今日はどうしても聞きたいことがあって...。耕三の悔やみを伝えた紀保は伊織に尋ねる。お父さまが亡くなったのは本当か、まだ生きているんじゃないかと。
だとしたら嬉しい、父親が生きていたら俺の人生も変わっていたと伊織。そして告げる。あんたとは関係ないことだ、おふくろにももう会いに来ないでくれ、あんたが俺と会わないと決めたように、俺もあんたとはもう会わない。
行きかける伊織。紀保は待ってと呼び止める。指輪、ありがとう、大事にする。紀保の手のなかに伊織のくれた青いトルコ石の指輪。伊織は黙って立ち去る。やがて紀保はかげから出てくる。伊織はもうどこにもいない。紀保のなかに安堵と後悔が入り交じる。
翌日、アトリエに龍一の後輩がOB会の打ち合わせにくる。彼が持っていたOB会の名簿を見て、紀保はハッとする。
7/21「夕顔の花」
花火大会の夜、工作所の耕三が、ひっそりと息を引き取った。紀保はお悔やみに駆けつけたかったが、二度とあの町へ行かないという龍一との約束を守る。耕三の葬儀が行われる。龍一が、紀保の代りにお悔みに訪れる。伊織は紀保の姿を目で探している。数日後、下町で紀保がかつて紅夏と植えた夕顔の花が咲く。蔦子が突然、紀保のアトリエを訪ねてくる。紀保と伊織の気持ちに気づいていた蔦子。自分の苦い過去を語ると、気持ちに正直に生きるよう紀保に忠告する。約束を破ってはいけない──紀保は自分に言い聞かせるが、一目だけでも伊織に会いたい気持ちが紀保を苦しめる。
第37話 「夕顔の花」 7月21日(火)放送
加賀診療所の診察台に耕三が横たえられている。すでに息を引き取った耕三。泣き崩れるフキ。伊織は口を引き結び、涙をこらえている。社会でうまく生きられずにいた自分を一人前の職人にしてくれた耕三の死。そこへセリが駆け込んでくる。泣き崩れるセリ。肩を抱き合う姉妹。伊織はいたたまれず外へ出て空を見上げる。
夜が明ける。アトリエに出勤した紀保は杏子からセリの連絡を聞き、耕三の死を知る。ショックを受ける紀保。
夕方、通夜の準備が進む。そんななか、龍一が弔問に訪れる。喪服姿の女が龍一の後からくるが、それは紀保ではなく杏子。蔦子たちが挨拶を交わすなか、伊織の目は紀保を求めてさまよう。それに気づく蔦子。
紀保はアトリエで働いている。借金問題が片付いたら二度とあの町に関わらないという龍一との約束。腕に巻くのは母から受け継いだ赤いピンクッション。泣いてばかりいる女にならないでと約束した母。紀保は笑顔で客の仮縫いを進めていく。
翌日、告別式が済み、浮舟で耕三を悼む人々。和美たちが耕三のためにも早くフキを伊織と結婚させ、工場の後を継がせようと話し合う。たまらない想いの雄介が工場の方を見る。工場では耕三の遺影を前に泣くフキ。伊織が肩に手を置くと、フキがその胸で泣きじゃくる。伊織の耳に耕三の声が響く。ありがとう、お前にはすまないと思ってると言った耕三。
ガラス戸越しにそんな二人を見ていた雄介。肩を落として出て行くのを、セリが見ていた。何よ、お姉ちゃんばっかり。セリは呟いている。
それから数日後、紅夏が蔦子を呼ぶ。紀保が植えた夕顔が一輪、花を咲かせていた。
その翌日、紀保が働くアトリエに蔦子が訪ねてくる。渡したいものがあってきたという蔦子。茶を出した杏子が廊下で盗み聞きしようと耳を澄ますが、スタッフに呼ばれて杏子もいなくなる。
蔦子が届けてくれたのは紅夏が描いた花火の絵。おねえちゃんへと書かれている。そして蔦子が話し出す。花火大会の日、実は紀保を追いかけた、そして偶然、紀保と伊織が一緒のところを見たのだと。もともと紀保の気持ちに気づかなかったわけじゃない。でも龍一という立派な婚約者がいて、伊織のことは遠い花火のように綺麗な思い出として胸にしまっておくのがいいと思っていた。けれども昨日、夕顔の花が咲いた。花を見ていて気が変わった。夕顔の花は庭先で切った花が器に活けるまでにもうしおれてしまう。生まれついた土地を離れては生きていけない儚い花。でも紀保は違う、どこの土地でも花を咲かせていける人間だ。二人の気持ちさえあれば、伊織とどこでも生きていけるんじゃないか。
そして蔦子は自分の話をする。昔、好きな人がいた。自分は芸者修行の身、相手はいいところのお坊っちゃま。泣く泣く諦めた。今は辛くても、いつかいい思い出になると自分に言い聞かせて。でも人は変わるようでちっとも変わらない。今でも何かあるたび、その人のことを思い出す。人が思い出だけで生きていけるなんて嘘っぱち。紀保にはそんな人生を生きて欲しくない。
紀保は怖い顔で立ち上がる。蔦子の言う通り、伊織が好きだ。今だって彼に会いたい。すぐそばに行って彼を慰めたい。でもそれはできない。自分は誓った。何があろうと龍一と生きる、真心を尽くすと。蔦子はいう。愛で誓った約束なら、愛が破ることもある。誓いを破ったからって、責められる人なんかいない。みんな何かしら誓いを破りながら生きているのだと。すると紀保は答える。誓った相手は誰かじゃない、自分自身に誓ったのだ。それを破れば自分を裏切ることになる。そうすればいつか私が私を許せなくなる日がくる。だから伊織のことはこのままでいい。遠い花火がいつか消えてなくなるように。
蔦子は帰っていった。紀保はずっと手のなかに握りしめたものを見ている。それは伊織に贈られた銀の指輪。やがて想いにとらわれ、いつか紀保は矢も楯もたまらず立ち上がっている。偶然に会ってしまったなら、誓いを破ったことにならないんじゃないか。偶然なら...。
伊織のもとにフキが駆け込んでくる。手にしたのは耕三の遺書だった。やがて龍一のもとにフキから電話が入る。僕に任せてと答える龍一。
紀保は海沿いの道を進んでいた。一目だけで言い。もし会えたら、お礼を言うだけ。彼が贈ってくれたこの指輪のお礼を言うだけ...。
やがて海辺のケアハウスが見えてくる。気ぜわしく足が早まる。敷地に入ろうとして紀保は戸惑う。建物の前に黒塗りの車。乗り込んだのはなぜか父・羽村だった。
7/20「忘れない夏」
紀保は紅夏と約束した花火大会にいく。紅夏との約束を果たした後は、この町を離れることになっている紀保。その夜、伊織は夕顔荘に残された一枚のカードを見つける。「ありがとう、お元気で」──伊織は紀保の部屋に駆け込むが、すでに引っ越したその部屋は、何もなくがらんとしていた。紅夏や蔦子と花火を見る紀保に、龍一から電話がかかる。伊織と過ごした時間が終わる。紀保はこの町と訣別して龍一の元に向かう。
第36話 「忘れない夏」 7月20日(月)放送
花火大会を最後に下町を離れる紀保。紅夏と路地へ出たところで花火の音が聞こえる。浮舟を挟んだ工作所の前には同じ花火の音を聞く伊織の姿がある。紀保に早く行こうとせがむ紅夏。歩き出す紀保。二人はすれ違う。
蔦子が伊織に気づく。紀保はもう花火に行ったと知る伊織。
やがて会場につく紀保。紅夏と花火を見上げる。美しい花火が夜空に上がる。
伊織は耕三を花火に連れて行くため、車椅子を持ってくる。すると耕三があの複雑なネジの図面を見ている。難しいという伊織に耕三がアドバイスする。肝腎なのは見た目でなく芯、ネジも人も見えない芯が大切なんだと。教えを胸に刻む伊織。フキが来ると、耕三は二人で行って来いという。自分はここでいい、見えなくても音で見える、今のは牡丹だと。着替えにいくフキ。伊織も着替えに出ようとしたとき、耕三が伊織にいう。すまないと思ってると。微笑む伊織。
伊織が夕顔荘に戻ると台所に封筒がある。開けてみるとカードが出てくる。「ありがとう。お元気で」と書かれたカード。そしてネジが一個転がり出る。それはかつて、伊織が「ダメだ」と放り出したネジ。それを紀保が持っていっていた。ネジを見つめた伊織はたまらなくなり、二階へ駆け上がる。紀保の部屋を開けると、がらんとして何もない。それは分かっていたこと。伊織はネジを手に微苦笑を浮かべる。
シャツを着替えた路地の伊織。浴衣に着替えたフキがくる。ネジから思いが離れない伊織。仕事が頭を離れないんだからと笑うフキ。伊織が諦めたように笑うとき、青年部の腕章をつけた雄介が駆けつける。雄介はフキを気にしながらも、川岸の歩道の照明が壊れたと伝える。分かったと道具を取りにいく伊織。雄介を睨むフキ。愛想笑いの雄介。
人ごみを離れたところで紅夏と花火を見る紀保。そこへ蔦子が追いついてくる。護は迷子。
一方、下駄を並べて歩くフキと雄介。雄介が機嫌を取ろうとするがフキはむくれている。どうしていつもこうなるんだろとぼやくフキ。だよねとため息の雄介。
その頃、伊織はひとり、橋にはりつき、懐中電灯をくわえて照明を直している。
そして、人ごみの外れに車。紀保を迎えに来ている龍一。やがて時間になり、龍一は携帯を取り出す。
護が見つかる。手にはお面や焼きそばなど屋台のあらゆるものを持っている。護が見つかり、はしゃぐ紅夏。笑う蔦子。紀保の携帯が鳴る。龍一からの電話。
気づいた蔦子が声をかける。もう行くのかと。頷く紀保。遠目で護と遊ぶ紅夏。蔦子が紅夏なら護が来たから大丈夫、今のうちにと告げる。一礼して背を向ける紀保。去りがたい思いが込み上げるが、振り切るように歩き出す。花火が上がる。そんな紀保を見る蔦子。小走りに離れる紀保。ひときわ高く、花火が上がる。
やがて紀保はつと足を止める。そこは初めてこの町に来たときに渡った橋。あのとき、紀保はこの橋の上で誓った。何があろうと龍一と生きる、龍一の無実を信じて...。あのときとは逆に橋を渡り、町を出て行こうとする紀保。不意に橋のたもとから音がする。川を見下ろすと、伊織がいた。
照明を修理していた伊織。「紀保」と思わず呟く。橋の上と下で見つめ合う二人。やがて耐えきれず、紀保は伊織に向かって走り出している。たまらず走り出す伊織。やがて川べりで二人は出会う。
もう会えないと思ってたと紀保。行くのかと伊織。ええと紀保。言葉を探す伊織は、すぐ消えてしまうのに花火に夢中になるなんて不思議だと口にする。消えてしまうから夢中になるんだと紀保は明るく答える。そしてさよならと手を伸ばす紀保。伊織は応えて握手する。やがて紀保は手を放す。歩き出そうとした次の瞬間、振り向き、二人は抱き合っている。抱き合ったまま涙こらえる紀保。伊織の肩でいう。「ありがとう...この夏を...忘れない」。花火が上がる。伊織が紀保のバッグに何か滑り込ませる。身を離す紀保。今度こそ走り去る。その姿を目で追う伊織。
紀保は龍一の車に乗る。ホテルを予約していると龍一。ところが携帯が鳴る。
伊織は橋の上で立っていた。紀保はもう戻って来なかった。諦めて背を向ける伊織。その姿を蔦子が見ていた。伊織を見つめ、紀保が去った方を見る蔦子。
龍一の電話は仕事の呼び出し。苛立つ龍一に、紀保は気遣いを見せる。
和美が耕三に差し入れを持ってくる。だが工場には誰もいない。伊織が工具を持って帰ってくる。誰もいないという和美。伊織が作業場に入る。機械の陰に耕三が倒れている。すでに息絶えていた。
ひとりアトリエに戻った紀保。バッグを開けると、紙包みが転がり落ちる。それは伊織が滑り込ませた包み。開いてみると、銀細工の指輪が出てくる。海のようなトルコ石の入った指輪。伊織が作ってくれた。見つめる紀保の瞳に涙が溢れてくる。「愛してる...私あの人を...愛してる」。後から後から涙が溢れてくる。
7/17「別れの始まり」
龍一の手腕で、工作所の借金問題に片がついた。喜びに湧く町の人たちを見て、紀保も顔をほころばせるが、それは龍一と約束した、この町との別れの訪れを意味していた。フキが伊織を連れて、紀保のアトリエへお礼の挨拶にくる。紅夏と約束した花火大会を最後に、町を出ることを伊織に伝える紀保。伊織は、みのりの事件のことは忘れることにする、という…。 そこへ羽村が姿を見せる。伊織の雰囲気を見とがめた羽村は、伊織が紀保のアトリエに似つかわしくないと侮蔑する。やがて、花火大会の日が来る。
第35話 「別れの始まり」
龍一の手腕で工作所の借金問題が解決した。紀保も顔がほころぶが、それは龍一と約束した、この町との別れを意味していた。浮舟で開かれるお祝いの席、伊織が静かに出て行く。龍一が追っていく。気づいた紀保に紅夏が話しかける。約束の花火大会がもうすぐだとせがむ紅夏。
作業場でひとり古い機械にビールを捧げる伊織。それは入院中の耕三の分身。龍一が来る。伊織は龍一に助けられた忸怩たる思いを押し殺し、礼を言う。すると龍一は握手を求める。あの時は握ってもらえなかったと龍一。それは無罪となった龍一が伊織に感謝を伝えた時のこと。伊織は握手する。これで貸し借りなしだと微笑む龍一。何も言えない伊織。
二人が気がかりで来た紀保は、その様子を遠くから目にする。
アトリエに戻った龍一と紀保は、二人で祝杯をあげる。礼を言う紀保。龍一が婚約指輪を返してほしいと言い出す。分からないまま返す紀保。すると龍一は新しい婚約指輪を取り出し、僕たちの新しい始まりだという。紀保の指に嵌めながら、左手に嵌めるのには他の誰かに心を動かさないように抑える意味があると話す。指輪が嵌り、愛してると龍一。できる精一杯で微笑む紀保。龍一の腕のなかで寂しさを感じずにはいられない。
廊下で中の気配を感じていた杏子。力なく去ってしまう。
平和が戻った下町。蔦子と和美が花火大会に紅夏の浴衣を新調すると盛り上がる。傍らで宅建の勉強に集中する雄介。必ず試験に受かって俺の好きにすると誓っている。
借金を残す工作所には新規の仕事の依頼が来る。図面を見ると、かつて紀保が紹介してくれたあの複雑なネジに似ている。紀保の存在の残りを感じながら、伊織はぜひやらせて欲しいと頼む。
借金を残す工作所のために頑張る伊織。そんな伊織が嬉しいフキ。そしてけじめをつけるために、龍一と紀保に挨拶に行きたいと言い出す。
数日後、紀保が仕事からアトリエに戻るとフキと伊織が来ている。華やかな世界に困惑している伊織。フキが、やっぱり私たちとは住む世界が違うんだわという。伊織に世界の違いを思い知らせたくて連れて来たいじらしいフキ。そこへセリが飛び込んで来る。モデル姿を見て欲しいとセリがフキを連れていく。
二人だけになると、ぎこちなくなる。伊織は舞い込んできた複雑なネジの仕事のことを話す。紀保の口ぶりに、やはり紀保が口を利いてくれたと分かる伊織。紀保はその話題を控えめに終わらせ、紅夏と花火大会に行く、その日までに夕顔荘を引き払い、あの町とお別れすると話す。すると伊織が、自分も済んだことは忘れることにしたという。自殺の真相を探ってもみのりが戻るわけじゃない。後ろを振り返るより借金を返して工場を建て直す。あの人はいい弁護士だ、あんたとお似合いだ。今日はそれを言うためにきた。伝え終えると、席を立ち、フキを残して帰ろうとする。急な終わりに慌てる紀保。伊織が部屋を出ようとしたとき、羽村が入ってくる。
戸口で思わず顔を見合わせる伊織と羽村。その場に似つかわしくない伊織を怪訝に見る羽村。紀保は取り繕おうと、優秀な腕を持つ職人だと伊織を紹介する。「瀬田と言います。瀬田伊織」。伊織は刺すように羽村を見返し、出て行く。紀保が追おうとすると、羽村が遮るように立つ。
その頃、伊織のことを雉牟田が加賀に話していた。伊織の腕に未練を残す雉牟田。ところが加賀が雉牟田に牙を剥く。これ以上伊織に手を出したら俺は洗いざらいしゃべる、そうなればあんたも俺もお終いだと加賀。雉牟田は加賀に圧され、了承する。伊織が諦めるという今、雉牟田も伊織を諦め、みのりの自殺の真相は闇に眠ることになっていく。
伊織の去ったアトリエで、羽村が汗と油の匂いがすると伊織を侮蔑する。紀保は反発を覚えるが、羽村は汗を流して働く彼を否定しているわけではない、住む世界の違う彼は紀保に相応しくないと説く。そこへ、羽村が相応しいという龍一がくる。談笑する二人の声を耳に、紀保は気持ちが沈む。
花火大会の日がくる。紀保は約束した護と蔦子を模した手作り人形を紅夏に贈る。伊織は耕三が一時退院することになり、フキと病院に行っていて町にいない。
やがて夕暮れが迫り、紀保と浴衣姿の紅夏が路地に出る。ふと工場を見る紀保。明かりが灯っている。工場では耕三の世話をする伊織とフキ。その頃、別荘で羽村がラグビーボールを手に思いに沈んでいる。「間違いない、あの瀬田伊織とかいう男...」。顔を上げる羽村。アトリエでは紀保を迎えにいく龍一が仕事を切り上げる。そして路地では、工場を見ている紀保。紅夏に呼ばれる。我に返り、工場の前を離れようとする紀保。工場では路地へ出ようとする伊織。そこへフキの呼ぶ声。伊織が振り向くうちに、紀保は路地を曲がり、二人はすれ違う。花火の音が聞こえ、天を仰ぐ紀保。工場から出た伊織の耳にも花火の音。別れを告げる花火が始まる。
7/16「二人だけの秘密」
雉牟田たちが借金の取立てに押し寄せ、伊織を拉致しようとする。そのとき、龍一が立ちはだかると、相手の不当な借金請求を糾弾。巧みに雉牟田の落ち度をつき、追い返す。その見事な手腕に、畏敬の念すら覚える伊織。蔦子から連絡を受けた紀保も駆けつける。伊織の無事な姿を見て、思わず涙ぐむ紀保。そんな紀保に、伊織は、みのりの自殺と、診療所の加賀を関係づける証拠を手に入れたと告げる。バレたら危険だという紀保。伊織は、あんたが秘密にすればバレない、同志なら誰にも、つまり、婚約者にも話さないはずだと告げ、そのまま紀保にくちづけてくる。
第34話 「二人だけの秘密」
紀保に蔦子から龍一にすぐ来るよう伝えて欲しいと緊急の電話が入る。
工場では雉牟田興行が暴れ回っていた。借金の取り立てと称し、工具や機械を持ち出そうとする雉牟田たち。伊織が阻もうとするが、身体の自由を奪われて連れて行かれそうになる。フキが止めようとするがかなわない。蔦子が立ちふさがるがあしらわれる。護は浮舟で隠れている。伊織が逃げたりしねえと腕を振りほどき、雉牟田と行こうとしたとき、龍一が立ちふさがる。
蔦子たちが外で心配げに見守るなか、工場で龍一が雉牟田と交渉を始める。
強制執行するのは裁判官か執行官、執行対象は人でなく財産、債権譲渡の耕三の委任状の提示を。法律と話術で次々と雉牟田を追い込む龍一。やがて雉牟田に耕三本人が債権譲渡の公正証書を作ったと嘘を言わせ、証書の日付に耕三が入院していたことを明かす。裁判所で会いましょうととどめを刺す龍一。
雉牟田は帰っていった。感謝するフキ。一方、龍一に畏敬の念を覚えてしまう伊織。龍一はこれが仕事だからと余裕を見せ、僕がうまく処理すると伊織の肩に手を置く。
敗北感を背負って夕顔荘に戻る伊織。すると加賀が庭に上がり込んで、スイカを食べている。雉牟田が自分を連れて行こうとしたのは「ヤバい仕事」を断ったことと関係があるのかと問う伊織。とぼける加賀。伊織は勢い込み、雉牟田とどういう関係か、雉牟田はみのりの薬の横流しに関係しているのかと問い詰める。すると加賀は、忘れないとおまえの頭も落としたスイカになる、すぐ町を離れろという。
伊織が食い下がろうとした時、廊下に紀保が来る。蔦子の電話で伊織の身を案じていた紀保。無事でよかったと涙ぐむ。心の動く伊織。
その頃、仕事を終えた龍一を蔦子が労っていた。華やいだ声で龍一を誉め、生い立ちを尋ねる蔦子。龍一は答える。生まれは横浜、両親は中学のとき空の事故で亡くなった、伯母が引き取ってくれ、伯母の夫が弁護士だったので自分も弁護士になった。感じ入って聞く蔦子。その様子をふと足を止めた護が窺う。
加賀を問い詰めていた伊織から事情を聞いた紀保。伊織は薬の横流しの主犯はみのりではなく加賀、加賀と雉牟田はがっちり繋がっていると思うと話す。証拠は雉牟田の仕事の図面だと伊織。紀保は雉牟田の仕事を断った伊織が、図面のコピーを隠していると気づいて青ざめる。危険だと止めようとして伊織の腕を掴む紀保。すると伊織が、あんたがしゃべんない限りバレないという。あんたは俺の同志だと言った、それなら誰にもしゃべったりしないはずだ。
同志は解散だと言っていた伊織が紀保に秘密を強要していた。その伊織に気づいた紀保の脳裏に、龍一の声が甦る。瀬田伊織との間に何があったと問いかけた龍一。
紀保は伊織を掴んでいた手を思わず離そうとする。ところが伊織がその手を掴んで離さない。もちろんあんたの婚約者にもしゃべらないはずだ。紀保を見据える伊織。逃げずに見返す紀保。二人の脳裏に交わした口づけが甦る。伊織が唇を近づける。思わず受けそうになり、すんでのところで紀保は伊織を押し返す。もちろん「このこと」は誰にも言わない、二人だけの秘密にする、だからもう同志のキスは必要ない。伊織は紀保を見つめる。そのとき、階段で物音。二階から落ちた夥しい本。降りてきたのは柏木だった。
龍一が帰る。見送った蔦子に護が、息子ほど歳が離れてる、岡惚れもいいとこ、みっともない真似しないでくれという。蔦子は分かったような口叩くんじゃないと出て行く。
柏木は不起訴になり、今は田舎の両親を手伝っていて、荷物の片付けにきていた。紀保と伊織に改めて詫びると、仕事を探しているが人と話すのが苦手で見つからないと話す。聞いていた伊織は、苦手を克服する努力もせず甘ったれてると切り捨てて出て行く。柏木の辛さも、努力した伊織の今の辛さも分かる紀保。
まもなくして、雉牟田が龍一に交渉を求めてきた。龍一は最後まで油断せず、雉牟田が恨まない最低の返済額で落着させる。法律の正義で勝ちきった龍一。唇を引き締める伊織。
町を離れる約束と引き換えに、龍一は工場の借金問題を解決した。浮舟でささやかな祝いの集まりが開かれる。
7/14「二人で背負う罪」
伊織は、工作所の借金を返すため、加賀の仲介を受け、裏社会と繋がる雉牟田の危険な仕事を引き受ける。職人の手をけがすような真似をしていいのかと、やめさせようとする紀保。もしかしてみのりを自殺に追い込んだ人間を捜すのが目的なのか、と伊織の無謀な企みに気づいて心配する。が、伊織は、二度とここへは来るな、と紀保を拒絶する。伊織がどうしてもやるなら自分も手伝う、と紀保は訴える。「だって私たちは…」と言いかけた紀保の口を、伊織がふさぐ。紀保は龍一に、弁護士として法律の力で工作所を救えないか、と力添えを頼む。伊織を犯罪者にしたくない、と土下座する。
第32話 「二人で背負う罪」
伊織は法に触れる仕事を引き受けた。護の話で察した紀保は伊織に会う。
手に誇りを持つ職人に手を汚して欲しくないと心から辛く思う紀保。ところが伊織は職人としての誇りを見せない。その姿に、紀保は伊織がずっと隠している心を指摘する。それは伊織が大切な工場を辞めようとしたときから、紀保のなかにあった伊織への疑問。今もみのりが自殺した理由を探ろうとしているのではないか。
違法な仕事をすれば逮捕される。警察が動けば加賀やその背後の人間に捜査が及ぶ。薬の横流しをしていたみのりを自殺に追い込んだ存在が明らかになる...。
伊織は危険は覚悟の上だと企みを認める。みのりに何もかも背負わせた奴らが許せないのだと。紀保は危険過ぎると止めようとする。紀保を巻き込みたくない伊織は、二度と来るなと冷たく紀保を廊下に追い出す。紀保は食い下がり、伊織に何かあったら伊織の母はどうなるのかと訴える。
動揺する伊織。それでもやるなら私も手伝う。「だって私たちは」。紀保がそう口にした瞬間、伊織が手で紀保の口をふさぐ。「あんたに何かあれば悲しむ人がいる」。そう言うと伊織はいつか手をずらし、紀保の頬に触れている。されるがままの紀保。ふたりの脳裏に甦る記憶。同志だからと口づけたあの日の二人。伊織は弾かれたように部屋に戻っていく。残される紀保。
伊織の落とした図面ファイルを拾っていると、フキがくる。ふっと笑うフキ。
工場で紀保に話すフキ。工場の資金繰りで苦労する母を哀れに思っていた。けれども今、母は充実していたと分かった。二人で一つの目的のために苦労するのは幸せ、工場を手放しても伊織とまた一から始めればいいだけ。フキの笑顔にたじろぐ紀保。優越感を覚えるフキ。
沈んでアトリエに戻った紀保を龍一が食事に誘う。先日に続いて、仕事があると断る。申し訳なく思うものの、とてもそんな気になれない紀保。縫製室に向かう。残された龍一のもとへ杏子が顔を出す。龍一がデートを断られたと察すると、紀保は急ぎの仕事なんかないと混乱させる。いつでも待っていますと微笑む杏子。
翌日、耕三の病院に出かける充実したフキ。伊織は見送ると、つと厳しい顔になり工場の鍵をかける。止めてくれた紀保の顔を頭から振り払い、雉牟田の仕事に取りかかる。
その頃、紀保はみずえを見舞っていた。みずえがまた自分を見て取り乱さないよう、隠れてシスターと話す紀保。シスターはいう。伊織以外に見舞いに来る人間はいない。ご主人も海の事故で亡くなったらしい。そのせいでみずえは海を見たがる。いたましく見つめた紀保はある覚悟を決める。
紀保は龍一と会い、龍一の力、法律の力で伊織の働く工場を助けて欲しいと頼む。すると龍一は、紀保の伊織への気持ちを確かめる。龍一の釈放を手伝ってくれたお礼ではなく、夕顔荘で過ごす間に伊織との間に何かがあったのではないかと。紀保は自分にとって龍一が無実となって目の前にいてくれることがすべてであり、他のことなど意味がないと答える。けれども伊織が工作所の借金を前に罪を犯そうとしているのを知ってしまった、彼を犯罪者にしたくない。紀保はそう言うと龍一に土下座する。
龍一は蔦子の仲介でフキと伊織と対面する。面白くない伊織。戸惑うものの反対はしないフキ。そこへセリが来て、自分が頼みたいのだと加勢する。
龍一を工場に案内する伊織。龍一は紀保が伊織の腕を誉めていたという。微かに口元をほころばす伊織。龍一は続ける。それだけの腕があるのになぜこんな町工場にいるのか不思議だった。でも理由が分かった。フキさんと君はお似合いだ。流れるように伊織を追い詰める龍一。伊織は工場にいるのは親父さんへの恩を忘れたくないだけだと言い返す。すると龍一は僕も君に恩があるという。拘置所で紀保の力になって欲しいと君に頼んだ。だから今度は僕が力になる。ここは必ず僕が守る、紀保のためにも。ただ紀保の願いで引き受けただけではない龍一。懐に飛び込んで来た龍一の戦闘意欲を知る伊織。二人は笑みを浮かべ、静かに火花を散らす。
セリからうまくいったと報告を受ける紀保。安堵と同時に憂いが忍び寄って来る。紀保が土下座したあの日、龍一は言った。引き受けるかわりに約束して欲しい。借金問題が片付いたら、二度とあの町に足を踏み入れないと。紀保はその約束を受けた。
翌朝、アトリエに悲鳴がこだまする。
7/13「危険な仕事」
伊織の窮地を救うために力を尽くす紀保に、龍一が、結婚をためらっているのではないかと尋ねる。逮捕されて紀保と引き裂かれたときの不安を語る龍一に、紀保はいたましさを覚える。すると龍一は、今夜は離したくないと紀保を求める。工場の債権を握る悪徳町金融の雉牟田が、伊織に借金の保証人になるよう求める。伊織は雉牟田が自分に「何か」を作らせようとしていることに思い当たる。紀保が工場のために捜していた仕事が見つかる。紀保が差し出す図面に、職人としてのやる気を燃やす伊織。紀保も嬉しくて…。ところが翌日、紀保は護から、「伊織にはもう関わらない方がいい」と忠告される。
第31話 「危険な仕事」
工場を訪ね、フキが伊織に身を寄せるのを見てしまった紀保。そこへ龍一が迎えにきた。龍一に肩を抱かれて帰る紀保。その様子を、今度は工場から出て来た伊織が見てしまう。
アトリエに戻ると、龍一が紀保に穏やかに話す。工作所を援助するのは世話になった彼らへの恩返しだと僕は理解していた。融資に使う金は羽村が自分たちの結婚祝いとしてプレゼントしてくれたもの。それを急に返したから羽村社長が驚いていたと。
フキに融資を断られた紀保は、お金よりも仕事を紹介した方がいいと気づいたからだと話す。すると龍一は、それだけなのか、結婚をためらっているんじゃないかと不安を明かす。紀保がハッとすると、龍一は不意にえん罪で閉じ込められた記憶を語る。また君と引き裂かれるんじゃないかと不安になる、夜中に目が覚め、独房にいた時の恐怖に苛まれると。いたましさを覚える紀保。その途端、龍一は紀保を抱き寄せ、今夜は離したくないと求める。紀保は迷いを断ち切ると、ええと頷く。
ところがその直後、杏子が本当に急ぎの仕事で紀保を呼びにくる。どこかホッとして仕事に戻る紀保。龍一に艶かしく笑う杏子。腹立たしい龍一。
その頃、伊織は夕顔荘でひとり、思いに沈んでいた。紀保は龍一に肩を抱かれて帰っていった。一方、フキを頼むと言った耕三...。やがて思いを振り払うと、伊織は作業台に向かい、銀のアクセサリーを作り始める。
翌日、昨夜の急ぎの仕事のためにスタッフに指示を出す紀保。杏子が来て、無断欠勤を続けるセリを解雇して欲しいと不満をぶつける。そこへセリがくる。紀保は闘病中の耕三の看病を続けるセリを気遣いながらも、夢を叶えたいなら自分を甘やかさないことだと優しく諭す。真摯に受け止めたセリは杏子に素直に謝る。思い通りに行かない杏子は面白くない。一方、紀保は仕事先から電話が入り、頼んでいたものが見つかり喜びの声を上げる。
その頃、工場には雉牟田興行が押し掛けて来ていた。雉牟田は借金の支払いを待つかわりに、伊織に保証人になれと言い出す。迷う伊織。するとフキが、伊織を守ろうとして自分が保証人になると宣言する。
それを雄介が盗み聞きしていた。話を聞いた護は、雉牟田の狙いは伊織の腕だと気づく。その横で、フキが借金のカタにフーゾクに取られると心配する雄介。
一方、伊織は加賀のことを思い出していた。雉牟田たちは伊織に作らせたいものがある、仲介してやってもいいと言っていた加賀。加賀診療所の前まで行くが、思いとどまる伊織。帰ろうとしたところへ、紀保が立っている。
夕顔荘の台所。紀保が伊織に見せたのはショーケースの図面。美術品を入れるための特殊なショーケースには特殊なネジが必要だった。引き込まれるように図面を見つめ、職人としての腕がうずく伊織。工場の窮地に仕事を探して来た紀保。伊織は強引だと言いながら、図面に夢中になる。依頼人に受注の連絡をしながら、久しぶりに生き生きとした伊織が嬉しい紀保。
ところがその日の夕方、フキが雉牟田の手下、犬山に連れて行かれそうになる。助けようとした雄介が犬山に袋だたきにされ、怪我を負う。駆けつけた伊織は、自分が狙われるせいで町の人を巻き込んだことを知る。その耳に、雄介を諭す蔦子の声が聞こえる。君子危うきに近寄らずよと。
伊織は加賀に会い、いっそ向こうの懐に飛び込んだほうが利口だと覚悟を話す。雉牟田の仕事を受けることを選んだ伊織。すると加賀は一枚の図面を出す。それは何かの部品の図面。逡巡する伊織。加賀はそれが何かを理解しないで作れるようあえて説明せず、詮索するなという。伊織は違法なものだと理解し、決心し、引き受けるかわりに町の人には手を出さないよう雉牟田に伝えてくれと頼む。
翌日、紀保は伊織から電話で仕事を断られる。突然のことに腑に落ちず、下町に行ってみる。すると紅夏と遊ぶ護。護はいう。悪いことは言わない、もうアイツとは関わらない方がいいと。護を紅夏から引き離した紀保は事情を聞きだす。伊織はヤバいものを作るのだと。護が紅夏の水鉄砲をピューとうつ。